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「やあ浅葱くん!さて、少々お時間の程よろしいかな?」

そろそろ来ると思ってたんだ。にこにこ上機嫌で俺の席の前まで近づいてきた委員長に読みすすめていた小説にしおりを挟む。丁度章が切り替わったところでよかったな。溜まっていた課題も片付いたし機嫌は上々だ。素直に話を聞く態勢になったのがよほど吃驚したのか委員長は黒縁眼鏡の向こう側で目を丸めた。


「てっきり怒ってるかと思ったけど」

「ああ、今朝の。ルールはルール、注意をしただけだ」

「そうかい、今朝はうちの部員がお世話になったみたいですまなかったな。やっとさっきお宅の書記の坊ちゃんからOKいただけたんだよ。無事発行できたよ、時期外れの転入生…補佐役代理任命の、謎の毛玉論」

俺の前の席に腰を落として実に楽しそうに話す委員長に謎の毛玉ねぇ、と響の顔を思い浮かべる。
現在は3限が終わったばかり。書記と言えば戸際だが今朝原稿を渡されているというのに発行許可をだすのに随分時間がかかったみたいだ。北条の姿も今朝から見てないからきっと生徒会室で仕事をしているのだと思うがまさかこんなに時間がかかるものだろうか。ふとなんとなく嫌な予感に胸がざわつくが、また何か問題があれば北条ならばすぐ連絡をよこしてくるはずだし気にしすぎだろう。
それで、と話をつづけようとする委員長に手のひらを向けてストップをかけた。

「ひとつ、調べてほしいことがある」

「調べて・・・って、俺一般生徒だぞ?会長の特権使ってもわかんないこととかって・・・なんかそれやばいやつじゃ、」

「ギブアンドテイク、じゃなかったか?」

今後俺からの情報がなくなったら新聞部はどうなるかな。呟くように言えば委員長はもともと不健康なその顔色を更に青くすると考え込むように口元に手を持って来た。
脅したいわけじゃないが俺にだって知りたい情報のひとつやふたつくらいある。黙りこくる委員長の肩を叩いて口を寄せる。委員長の耳元で小さく囁いた。

「・・・風紀委員長と、うちの補佐代理の関係が知りたい」

「・・・なるほど。…確かに、その二人の耳を疑うような情報はいくつか入ってきてる。本当かどうか怪しいけどな。…まあそれなら。浅葱には世話になってるしな。いいぞ」

「助かるよ、頼んだぞ」

まあ、ギブアンドテイクだしな。そう言ってメモ帳を開く委員長にこれで少しは心労も無くなればいいのだが、とため息をつく。
少し前に食堂で起こった騒ぎの中心には加賀谷と響がいた。そしてその騒ぎから外れたところには俺と清原がいて。その時の清原の嘲るような笑みが脳裏に焼き付いて、今も離れやしなかったのだ。


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