9



◇◆◇



一夜明けた今日の朝はやけに騒々しい朝だった。

朝っぱらから中央広場に常設されている掲示板の前にわいわいと群がる生徒たちに、この流れは決していいものではないよなぁと嫌な予感に頭が痛む。彼らの中心では誰かが紙を配っているようだ、新聞部か何かだろう。広報部と新聞部の二大情報系部活があるが奴らはろくな情報を流さない。厄介な問題ばかりを広めるもんだから生徒会も風紀も彼らの扱いに困っているのだ。

「号外だよ〜号外」

「おい。おまえ新聞部か?」

「そうですよ〜!ささっ、今日は特だねが…か、会長!こ、これは朝がお早い…」

「配布の許可は取ってるのか?昨年から新聞部に対する規定が変わっただろ」

「あっいや、あの、…し、審査には一応…」

「一応…なんだ」

俺の顔を見るなり顔色を変える新聞部の男に怪訝な顔をする。俺の顔を見て嫌な顔をする奴は大体悪いことをしているっていうのが定石だ。
問い詰めると黙りこくってしまった新聞部の男に、これは大方審査に通過したというよりも、朝に出来上がった原稿を生徒会室前の郵便受けなるものに投函しただけだろう。この時間ならまだ誰も登校していないはずだしきっとまだ許可など降りていない。そこまで考えが行き着いたところで足元に落ちている紙を一枚拾い上げ、男に突っ返した。

「全て回収して帰れ。それを配って回るのは生徒会の検閲が入ってからだ」

「は、はい…すみませんでした、」

しょぼくれたように掲示板に張り出された紙を回収していく男、掲示板の前でたむろするガヤもこのいざこざに気がついたようでそそくさとその場を後にする。すっかり人気が少なくなった広場に残された、号外の文字がでかでかと印刷された新聞を拾い上げた。

「…」

「新生徒会補佐役はなんと威勢のいい毛玉?!彼は如何なる手段を用いたのか…」

「…赤城。」

どこから湧いて出てきたのか。背後からすっと現れた赤城に寒気を感じるも当の本人は上機嫌に笑いながら俺の手から新聞を引き抜いた。
ふむふむ、と読み進めて行く赤城にそういえば新聞部の部長はうちのクラスの委員長でもあることを思い出す。これは登校したらクラスでいろいろ問い詰められそうだ。転校して間もない事もあり響に対しての情報が少なすぎるのだ。そりゃ謎の毛玉と言われても仕方ない。正しい情報を流す約束をつけさせなければ。

「赤城、しばらく響について回ってくれないか?」

「は?なんでまた」

「用心棒だよ。今のあいつは安全とは言えないだろ」

「やだね。俺は生徒会の役員でも風紀の人間でもなく会長の親衛隊隊長ですよ?いいように使うのはやめていただきたいですね」

「…こういう時ばっかり隊長面しやがって。…っち、」

それもそうだ。赤城の言う通りこいつは役員でもなんでもない、一応一般生徒という括りではあるのだ。不機嫌そうに新聞を丸めて近くのゴミ箱に捨てる赤城に、ならどうするかなあと厚い雲が覆う空を見上げた。


「そんなに心配なら風紀に頼んでみたら?つきっきりは無理でも見回り強化とかならしてくれるんじゃないですかねぇ」

ぶっきらぼうにそう言う赤城に、確かにそれが一番手っ取り早いかと頷く。最近の治安の悪さにも手を焼いていたことだしまずは見回り強化をして治安の回復も同時に行えたら万々歳である。

「…そうだな、加賀谷に掛け合ってみよう」

「そーしてみてください。んじゃ俺はこれで」

「そういや、お前こんな朝っぱらから何してんだ」

「お仕事?親衛隊隊長も暇じゃないんでね」

そいじゃ、と手をひらひらさせて校舎とは反対方向へ歩いて行ってしまう赤城。その後ろ姿を眺めながら親衛隊の仕事ってなんだ?と首をかしげた。そういえば俺はあいつの仕事の何一つ知らない。こんだけ近くにいてもあいつは親衛隊について詳しくは語ろうとしなかった。まあどうせろくなことをしていないだろうなと勝手にまとめてそっとしていたのだが今になって気になり出すのはタチが悪いだろうか。あまり話したがらないだろうが試しに今度聞いてみるか。赤城に背を向けて校舎を目指して歩き始める。
そろそろ溜まった課題と授業内容の確認をしなければやばい。この時間なら1時間半は勉強できるだろう、さっさと行って終わらせなければ。
運動部のランニングの声が遠くの方から聞こえてきた。

8/19
prev/next

しおりを挿む
戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -