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「で?なんでそういう話になったんだ。」
「先日の件から巡流を放っておくのは危険すぎると判断しました。一人行動なんてもってのほか。そこで考えたのですが、巡流は要領も悪くないし、よく気が付く。それに何よりも人柄がいい。・・・今の生徒会に足りないのは人手かと僕は思うのですが、会長はどうお考えですか?」
「人手……確かに、もう一人分の助けがあればと思うこともなくはない。だが補佐は1人と決まってる。補佐だけじゃなく役員だって一名。選ばれた者が責任を持たなければならないと代々決まっていることだろ」
「それでは、今の補佐は一体どこで何をしていますか?僕たち役員の補佐をしている?……ははっ、それは笑える」
ばかにしたように鼻で笑う北条に血が頭に巡るのがわかった。
「北条」と呼ぶ声は低く怒りがにじみ出ている。そんな俺から澄まし顔で視線を外す北条に岩村が大きくため息をついた。
「やめてよ本当、快斗に言われたこともう忘れたの?」
「・・・」
「人手が足りないのは本当。でも補佐の枠は埋まっているのも事実。そうでしょ?」
ええ、と小さくうなずく北条の些細な動きでさえ癇に障る。
「巡流の身の安全と生徒会の人手の件をまとめて解決できるのは生徒会に引き込むことだけなんだけどなあ……」
「それなら補佐代理っていうのはどうですか?」
「補佐代理?」
「生徒会補佐、相良先輩がいない間代わりに補佐として働いてもらうんです。そうすれば一応補佐二人っていう事態は避けられますよね?」
なるほど、とうなずく岩村に、関心したような表情の北条。
戸際はどうすかね、と不安そうに俺を見つめるが、その視線から逃げるように俺は立ち上がった。
「重要書類の管理は?機密情報や個人情報の取り扱いはどうする。補佐代理にしても、あいつが帰ってきたら切り捨てるように、使い捨てのようにはできない。扱いが面倒だ」
「補佐代理として、卒業まで働いてもらいましょう」
「はあ?」
「今年度いっぱいは代行としてですが、来年度はわかりません。もしかしたら補佐に昇進するかもしれません」
ただ、一般生徒に降格することはないでしょう。
北条は自信満々にそう言って退け、響を愛おしげに見つめる。その目に宿った熱に、ああ。と悟る。そういうことか、どうりで、やけに今日は攻撃的だと思ったんだ。
「響は。お前はどうなんだ」
「え、」
「生徒会に携わった者はふつうの暮らしはできない。いい意味でも悪い意味でも、だ。」
響は困惑したように瞳を揺らす。
大体、周りが勝手に騒いでいるだけだろう。肝心のこいつの本心を聞いていない。
「響」
「俺は、や・・・や、りたいです、・・・補佐代理」
「・・・そうか」
何日か前のことを思い出す。それは初めて響と出会った朝のことだ。
『生徒会にかかわるな。』
学園に来たばかりの、不安と期待を混じらせた響の瞳は今のように困惑に揺れていた。
きっと、もうこれは俺にはどうすることもできない。
好きにしろ。小さくつぶやいて生徒会室を出て行った。
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