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「ちゃんと窓空けろ! くさい、俺まで疑われるだろうが」
「わーかってるって!」
音立てて窓を開ける雅宗の姿を横目で見ながら体を伸ばす。
結局2時間近く授業をさぼってしまった。仕事もなにもせず、ただくっちゃべってだらだらと過ごす時間はとても気が楽だった。新学期早々これはマズいなと思いながらも、雅宗の誘惑には勝てない。
腹減ったなあと雅宗がぼやく。もう昼休みだ。
「滝真、めしは?」
「生徒会室行くから、なんかしらあるだろ」
「生徒会室ってなんだよ、聞くと大体はなんでもあるよな。そこって住める?」
「住めるか馬鹿」
昼一緒にするならついてくるか? そう笑って尋ねれば、雅宗は心底嫌そうに顔をゆがめて、その様子につい笑う。こいつの生徒会嫌いはいまに始まったことではない。
「今日は遠慮しとくよ」
「いつになく謙虚だな」
「俺はいつだって謙虚だよ」
呆れたようにため息をつく雅宗に背を向けて教室の扉を開け放つ。廊下に人影は見えない。
「それじゃあな、午後はちゃんと授業受けろよ馬鹿」
「おう。滝真も頑張れよ」
「お前に頑張れって言われると変な感じする」
「せいぜいがんばれよ、か?」
「ああ。そっちの方がしっくりくるな」
どこまで本気か知らないけれど、不敵に笑う雅宗はまるで悪役。最後は必ずヒーローが勝つって決まってるからな。そうやって笑いながら、雅宗の残る教室を後にした。
side change
「ヒーローがお前とはまだ決まってないだろーが」
振り返ることなく出て行った滝真の後姿を見えなくなるまでずっと眺めていた。
彼が最後口にしたセリフは、ひどく残酷なものだった。
「悪役は、お前かもな」
悪役はお前で、ヒーローは俺で。
ヒーローが悪に勝つのはセオリーだ。さて、その後は一体どうなったかな。
悪を殺すもよし。
悪と握手を交わすもよし。
悪を善に染めるもよし。
今はお前がヒーローかもしれない。けどこれから先はどうなる?いつだって悪になりえるというのに、お前はそんなことも考えずに。
煙草の吸殻を携帯灰皿に入れる。
自分では煙草の匂いに気が付かない。大抵のことは当てはまるだろう。そんなもんだ。
「……なんてな」
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