デスゲーム
「はあっ……な、何なんだよ、あいつ……っ」
「お、追って来たりしてない……よね?」
人気のない廊下を振り返って二人はほっと息を吐いた。
しかし心臓の鼓動は痛いくらいに鳴り響いている。
「ねえ、あれって"作り物"だったんじゃ……」
「はあ?どう見ても本物だろ!」
「だって普通に考えてあんなのおかしいじゃない。あの人はきっと演劇部の人で……そう、きっと劇の練習をしてたんだよ。夏だからホラーっぽいものを上演するとかで……」
「あんな真っ暗な部屋で一人で劇の練習してるとか、どっちにしろ普通じゃねえだろ!」
「それかブンちゃん達の悪戯かも。ほら、肝試しとかやりたいって言ってたし……」
恐怖を紛らわす為に楽観的な考えが頭に浮かぶが、どうしても顔が引きつってしまう。
あれはどう見ても"本物"だった。
断面図からは骨が覗いていたし、滴る血も臭いもとても作り物とは思えなかった。
「とにかく早くここから出るぞ」
「うん。でも非常口も開いてなかったよね……」
「こんだけ広いんだからどっかに出口くらいあるだろ」
ユキは胸に手を当てて心を落ち着けると改めて学校の構造を頭に思い浮かべた。
「エントランスがダメなら……後は"カフェテリア"かな。あそこなら鍵が掛かっても内側から開けられるはず」
「よし、行くぞ!」
赤也に手を引かれながらエレベーター横の階段を下りてカフェテリアへ向かうと、テラスへ続くガラス扉の前に誰か立っていた。
「だ、誰だ!」
懐中電灯の明かりを向けて赤也が威嚇するように叫ぶと、二つの人影が驚いたようにこちらを振り返る。
「え?……亮!?」
「お前ら……!」
「ユキさん!」
そこにいたのは氷帝学園の生徒である3年の宍戸亮と2年の鳳長太郎だった。
見知った人物に会えてほっと胸をなで下ろす反面、どうして二人が夜の学校にいるのか疑問が頭に浮かぶ。
「まさかお前らまでここにいたとはな……」
そう呟いたところで宍戸は懐中電灯の明かりに照らされたユキを見て驚愕した。
「お、お前、なんて格好してんだ!!」
「仕方ないじゃない!目が覚めたら下着姿だったんだもん。着てた服も見当たらないし。だから生徒会室にあったお兄ちゃんの服を借りたの」
「ああ、どうりで見覚えが……。すみません、ジャケットがあれば良かったんですけど、その格好で寒くないですか?」
「大丈夫だよ。今日は結構暑いから」
「ま、まあいい……それでなんでお前らがここにいるんだ?」
真っ赤になった顔を隠すように視線を逸らしながら宍戸が言うと、ユキは小さなため息をついて答えた。
「私達も驚いたよ。まさか亮と長太郎君がいるなんて。こんな時間まで残ってたの?」
「いえ、俺達は目が覚めたらここにいて……」
「え?二人も?」
「って事はお前らもか」
「うん。エントランスが閉まってたから、ここなら出られると思って……」
そうユキが言うと、宍戸と鳳は顔を見合わせて静かに首を振った。
「俺もそう思ったんだけどよ。ダメみたいだぜ」
「え?」
「開けてみればわかりますよ」
訝しげに思いつつガラス扉に手を掛けると、がちりとした手応えが返って来た。
「あれ?」
「何だよ、これ……くっ、開かねえ……!」
鍵は外してあるのに押しても体当たりしても扉は開かない。
「どうなってんだよ!」
「他に鍵なんてなかったよね?」
「ああ。ストッパーはあるけど外してあるしな」
「俺達もさっき試してみたんですけど開きませんでした」
まるで空間に張りついているかのようにガラス扉はビクともしない。
「ふざけた放送と言い、何が起きてるんだがさっぱりわからねえ」
「やっぱり誘拐なんでしょうか?」
「これだけの人数を誘拐して学校に監禁する犯人なんて聞いた事ねえよ。朝になりゃすぐバレちまうじゃねえか」
「せめて外部と連絡が取れればいいんですけど……」
「生徒会室の電話は使えなかったぜ」
「職員室にはまだ行ってないけど電話あるかなあ?」
「後は守衛室くらいか。それと"充電器"があったら助けを呼べるんだけどな……」
「充電器?」
すると宍戸がポケットから携帯電話を取り出してユキに見せた。
「ケータイ持ってるなら早く言ってくださいよ!それで電話すりゃいいじゃないっスか」
「だから充電が切れちまってるんだよ!昼飯の時にはもう切れ掛かっててからな」
「でも学校に携帯電話の充電器なんて置いてないですよね?」
「あ……!」
鳳の言葉にユキはふとある事を思い出して手を挙げた。
「そう言えば生徒会室のクローゼットに予備の充電器入ってたような気がする。お兄ちゃん、携帯電話いっぱい持ってるから」
「ああ、そういや生徒会室に跡部の持ち物が色々置いてあったな」
「じゃあ行ってみましょう」
四人は廊下に出ると階段を上がって三階にある生徒会室へと戻った。
跡部のクローゼットを探ると、思った通り非常用の充電器が見つかった。
「よし、電源入ったぜ」
「よかった。これで助けを呼べそうだね」
「とりあえずここはやっぱり警察に電話するべきか?」
「あまり大事にはしたくありませんけど状況が状況ですし……」
「絶対誘拐っスよ!ユキなんか殺されかけたんスから!」
「はあ?そうなのか?」
「う、うん。赤也が来てくれなかったら死んでたかも……」
「わかった。じゃ警察に電話するぞ」
全員が頷くのを確認して宍戸が電話を掛けるとしばらくして電話が通じた。
しかし電話口から聞こえて来たのは警官とは思えない少年の声だった。
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