ウロボロス
「なんでこんな事……返せよ。全部返せよ!幸村部長もこいつの兄貴も、丸井先輩達も全部アンタのせいで……っ」
「……」
赤也に胸倉を掴まれて怒りに燃えたその瞳を見つめる。
この場面を何度繰り返して来ただろう。
趣向を変え、舞台を変え、何度も何度も繰り返して来たデスゲーム。
次こそは未来を変えられると僅かな希望を託しては裏切られ絶望する。
サチコが飽きないように様々な演出を用意して、その中で手足を操る糸を断ち切ろうと策を巡らせる。
失敗しても、それを活かせば次こそは成功すると信じて。
無駄だと赤い悪魔が笑い飛ばしても、俺は努力を続けて来た。
けれどもう疲れた。
どんなに足掻いたところで俺はこの悪魔から逃げられはしない。
赤也達は永遠にデスゲームをクリアする事がない。
サチコの望むままに生と死のギャンブルを繰り返すしかないのだ。
1と0しかないサイコロを振って"6"になる事を願う。
そんな愚かで果てしないギャンブルを続けるしかないのだ。
どんなに責められても、全てを投げ出したくなっても、それでもずっとすがりついて来た希望は、最初からどこにもなかったのかもしれない。
サチコの操り人形である俺には自分の糸を断ち切る事はできない。
だから幸村達に僅かな希望を託しチャンスを与えて、サチコが支配する井戸を打ち破ろうと努力して来た。
もし万が一俺の糸を断ち切りサチコに辿り着く事ができたならば、あの日失ってしまった未来を取り戻せるのではないかとそう信じて。
「っ……ゲームオーバーじゃな」
体に突き刺さったナイフを引き抜く事もせずに俺は呟いた。
操り人形であるマリオネットに痛覚など存在しない。
笑えというサチコの指示通りに俺は笑みを浮かべる。
「せっかく"チャンスを与えた"のにのう……"また"ゲームオーバーぜよ……」
「!」
赤也に顔を殴られてよろけるが、それでも笑みは絶やさない。
サチコの機嫌を損ねれば、そこで全てが終わってしまうからだ。
「てめえまだそんな事言ってんのかよ!!何がチャンスだ、何がゲームだ!こんなの絶対に許さねえ!!」
赤也の怒声も壊れたテープレコーダーのようで現実味がない。
「っ……もう"聞き飽きた"ぜよ」
そう呟くと俺は血の海の中に倒れた。
だんだんと意識が遠くなっていく。
このまま眠れたらどんなに幸福だっただろうか。
それでもまだ"ゲームセット"にはしたくない。
試合終了のコールは聞きたくない。
次は……次こそは上手くやってみせる。
きっと今度こそ希望の朝はやって来る。
この糸を断ち切って自由を手に入れる。
今度こそは……きっと……。
薄れゆく意識の中で、サチコの笑い声だけがいつまでも響き渡っていた……。
END.
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