ウロボロス

「フフ、アハハハハ!!」

響き渡る子供の笑い声。

耳元で囁くような悪魔の甘い誘惑。

この学校では全てが悪魔の掌の上で起こっている些細な児戯だ。

生者も死者も子供の玩具に過ぎず、天神小学校そのものが井戸で、俺達はその中で足掻くカエルのようなものだ。

頑張れば、希望を捨てなければ必ず出られると信じて井戸の底をぐるぐると回り続けるカエル。

初めから俺達に選択肢などなかったのだ。

赤い服を着た少女……サチコは、一人残った俺に笑みを浮かべながら囁いた。

「生きたい?それとも死にたい?」

俺に選択肢などないとわかっていながら、赤い悪魔は俺に尋ねた。

どちらの道を選ぼうとも待っているのは地獄だけ。

俺を地獄の底へ突き落とす凶器が、ナイフか包丁の違いくらいしかない。

これはただの暇潰しだ。

退屈を嫌う子供が天神小学校というボードで踏みつければ簡単に潰れるカエルの駒を使って遊ぶ、それだけの遊戯だ。

けれど子供は好奇心が強く、飽きやすいものだ。

お気に入りの玩具が数日後には何の興味もないガラクタに変わる。

俺はそんな玩具の一つとして選ばれたに過ぎない。

姉を"殺した"あの時に、仁王雅治は死んだのだ。

今ここに残っているのはその残骸。

ツギハギだらけの手足を糸で縛られ操られたマリオネットだ。

そうして俺はサチコの玩具として悪魔の望むままに、やりたくもない遊戯に参加させられる事になった。

今思えば天神小学校を彷徨っていたあの大男は、俺と同じサチコの玩具だったのだろう。

自分の意思など簡単に踏み潰されてサチコという悪魔に怯えながら従うだけの駒。

大男の代わりに俺が選ばれ、そして何度も天神小学校に迷い込んだ人間……いや、井の中の蛙を踏み荒らした。

一度井戸の中へ落ちてしまえば、もう出口などない。

散々井戸の底を彷徨い歩いて干乾びるだけの運命だ。

自分のいる場所が出口のない井戸だと知る前に死んでしまった方が、いっそ幸せなのかもしれない。

俺のように悪魔に目をつけられそこが井戸である事を知ってしまえば、後に残るのは深い絶望だけだ。

糸を断ち切って逃げる事もできず、操られるだけの人形では助けを求める事もできない。

無関係の人間を手に掛けて返り血を浴び、恨み言を囁かれてまた操られる。

そんな事を繰り返してまともな精神でいられるはずがない。

いつしか俺は愚かなカエルを踏み潰す事に快楽を得るようになっていった。

何も知らないカエルの体を引き裂いて内臓をぐちゃぐちゃに潰しても罪悪感など感じない。

これはゲームなのだから、何をしても許される。

善悪の概念も子供の遊戯には通用しない。

そんな風に少しずつ狂いながら俺はサチコの玩具として操られて来た。

もう全てがどうでもよくなっていた。

この赤い悪魔から誰も逃れられないのなら考えるだけ無駄だ。

痛みも苦しみもゲームだと思ってしまえば何も感じなくなる。

ゲームにはいつだって"リセットボタン"があるのだから、気に入らないのなら最初からやり直せばいい。

そうやって何度も何度もサチコが飽きるまでゲームは続く。

白檀高校、如月学園、覚えるのも面倒なくらいたくさんの人間が巻き込まれ悪魔の餌食となっていった。

誰も逃げられはしない。

このデスゲームは最後の一人になるまで続く。

生き残った者だけが勝つ。

謎解きのヒントもご褒美の宝箱も、全ては退屈を嫌うサチコの為の演出。

何でも器用にこなす俺は、サチコのご機嫌を取るのも得意だった。

より残酷に、希望の一片すら残さない程の絶望をプレイヤーに与える。

そうすればサチコは喜ぶ。

手を叩いて腹を抱えて笑うのだ。

いつまでも、いつまでも……。

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