アポカリプス

「ユキ、おいしっかりしろよ!」

どんどん血の気が引いていくユキの顔を見つめながら赤也は泣きたい気持ちだった。

とりあえず傷口に自分のシャツを巻きつけて押さえてみたが出血は止まらない。

辺りを見回しても目につくのは死体ばかりで誰にも助けは求められない。

跡部の死も、幸村の死も、デスゲームの真実も、何もかもが衝撃的過ぎて頭が混乱していた。

どうすればいいのかわからず、とにかくユキを救う為に思いつく限りの手当てを行う。

けれど自分は保健委員ではないし、マネージャーのユキと違って応急手当の知識もない。

幸村なら多少の知識はあっただろうが、死者に助けを求める事はできない。

「死ぬなよ!勝手な事しやがって……何カッコつけてんだよ!そういうのは俺の役目だろ!」

何もできない事が悔しくて涙が溢れて来る。

点滅する明かりがユキの青白い顔を照らし出す。

今だけは神にも悪魔にさえもすがりつきたかった。

こんな形でユキを失いたくはない。

彼女を救えるのなら自分の全てを捧げてもいい。

そう思える程に、大切な存在なのだ。

「!」

ふと耳を澄ますと誰かの叫び声が聞こえた。

顔を上げると昇降口の方から誰かが駆け寄って来るのが見えた。

「赤也!無事か!?」

「っ……真田副部長!」

見慣れた姿に感情が爆発しそうになる。

真田は駆け寄って来るともはや血の海と化した広場を見て一瞬言葉を失った。

ここはもう地獄だ。

とても現実とは思えない程の悪夢。

それでも自分達はまだ生きている。

生きている以上、希望がなくては生きていけないのだ。

「真田副部長、俺……っ」

色々な事が起こり過ぎて何から話せばいいのかわからず言葉を詰まらせる赤也に、真田は厳しい表情で言った。

「しっかりしろ!お前がそんな事でどうする!いいか?まだ全て終わった訳ではない。これからが正念場だぞ」

「っ……はい」

滲んだ涙を拭って赤也は冷たくなっていくユキの手を握り締めた。

と、その時だった。

どこからかかすれたような声が聞こえて赤也は後ろを振り返った。

「お前……!」

「っ……ごほっ」

血の海の中に倒れ伏した哲志が、微かに呻いて咳き込んだ。

うつ伏せに倒れていたので傷の状態までは確認していなかったが、どうやら急所を外れていたらしい。

今まで気を失っていたのか、痛みで動く事ができなかったのか、死んでると思っていた哲志が生きていた事に赤也はただ驚いた。

重傷の哲志は呼吸をするので精一杯の様子だったが、赤也の腕に抱かれたユキを見て不安そうに目を細めた。

「"由香"……俺が守らないと……っ」

妹の上履きを履いたユキをまだ由香だと思い込んでいるのか、哲志は必死に手を伸ばす。

だが赤也の近くにいる真田の顔を見て驚いたように目を見開いた。

「!、お前は……!っ……"由香"、ダメだ……そいつは"偽物"だ……ごほっごほっ!」

激しく咳き込んで哲志はまた動かなくなった。

微かに息はあるようだが意識がはっきりしないのだろう。

手当てもせずに放置しているのだから無理もない。

しかし今はそれどころではなかった。

哲志が言った"偽物"とはいったいどういう意味なのか。

「何だよ、それ……"偽物"って……!」

その時ふと頭に浮かんだのはこの前の練習試合の様子だった。

ダブルス2で仁王と柳生が仕組んだ罠。

柳生に変装した仁王がレーザービームを打つ事で相手を混乱させ、動揺したところを一気に畳み掛ける。

……そう、仁王は変装が得意だった。

その気になれば誰にでも化ける事ができる。

「まさか!」

振り返った赤也に、真田はふっと笑みを浮かべた。

ピエロが化粧を落とすように顔を手で払うと、そこにあったのは紛れもなく仁王の顔だった。

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