カタストロフィ

「……」

幸村は静かに目を閉じるユキをじっと見つめていた。

傷の痛みと熱で意識もはっきりしないだろうに、それでも笑みを浮かべる彼女を見て、やはり自分は彼女に強く惹かれているのだろうと確信する。

それと同時に自分がずっと感じていた嫉妬心が正しかった事も理解する。

けれどもうそれを否定する事はできないし、どんな卑怯な手を使ってでも彼女を奪おうとした事は事実だ。

自分の醜い嫉妬心を赤也に押し付けて、ユキの視界から邪魔者を排除しようとした。

そうでもしなければ、ユキは自分を見てくれないだろうから。

だが目論見は外れ、ユキは赤也を庇って自分の放った銃弾に倒れた。

結局、赤也に勝つ事はできなかった。

必死に足掻いてすがりついた結果がこれだ。

最初からわかりきっていた事だ。

優しい彼女が誰かを憎んだり疑ったりするはずがない。

相手が誰であれ彼女はそうしただろう。

そんな彼女だからこそ、自分は惹かれたのだから。

「……俺の負けだな」

深いため息をつくと同時にどっと疲れが押し寄せる。

立っている事さえ辛くて体がふらついた。

視界にぐちゃぐちゃに潰れた跡部の死体が映って思わず自嘲的な笑みを浮かべる。

妹の本心に跡部が気づかなかったはずがない。

自分があっさり気づいたのだから、跡部ならもっと早く気づけただろう。

愛する妹の為に犯罪まがいの事にまで手を染めている男だ。

自分がユキにとってたいした価値のない男である事は、跡部もよく知っていたはずだ。

認めるのが悔しくて自分から言い出さなかっただけで、いずれはこうなっていただろう。

……あの時、屋上から飛び下りなければならなかったのは自分の方だった。

彼女の最愛の兄を守って死ぬ。

そんな悲劇的なヒーローを気取って命を落とせば、彼女も同情くらいしてくれたかもしれないのに。

大好きな仲間が死んだら妹が悲しむ。

そんなちっぽけな理由の為に、跡部は命を落とした。

彼を殺したのは自分だと言ってもいい。

些細な嫉妬心を言い訳に見殺しにしたのだから殺人と変わらないだろう。

だからこれは報いだ。

可愛い後輩を貶めようとした報い、彼女の愛する兄を死に追いやった報い。

因果応報とはよく言ったものだ。

願わくば来世でもう一度彼女に逢える事を祈って。

「幸村部長!!」

驚愕の表情を浮かべながら手を伸ばす後輩を見て、幸村は穏やかな笑みを浮かべた。

「ユキを頼んだよ、赤也」

……それが彼の残した最後の言葉だった。

一発の銃声と共に幸村精市は血の海の中へと沈んだ。


→To Be Continued.
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