コープスパーティー

「ああ、まだ生きてたのか……おはよう、もうすぐ"劇"を始めるよ」

ユキが目を覚ますと、すぐ側に眼鏡を掛けた男子生徒が立っていた。

右手に携帯電話を持ち、何かを撮影している。

「……?」

すぐには状況を理解できずぼうっとしたまま辺りを見回すと、そこは体育館の中だった。

ステージの片隅に座り込み、両腕は何故かネクタイのような物で縛られている。

ステージの下には幾つものパイプ椅子が並び、ステージだけが明るく照らし出されている。

無人の観客席に異様な雰囲気の舞台。

困惑したまま視線を横へ向けると、そこには見覚えのある顔が並んでいた。

「……」

一瞬それが何なのかわからなかった。

気味の悪いマネキンのようにも思えた。

けれど耐え難い異臭が鼻をついた時、全てを理解した。

「あ……ああアアア!!」

それはもはや悲鳴というより絶叫に近かった。

意識して出した声ではなく本能から発せられた警告音。

今まで感じた事のない嫌悪感と恐怖だった。

ステージにはたくさんの死体が並んでいた。

少女の首を抱いた眠り姫の死体。

胴体を真っ二つに割られ糸で吊られたマリオネットの死体。

顔がぐちゃぐちゃに潰れたおかっぱ頭の少女の死体。

どこを見ても死体、死体、死体、死体ばかり。

ここまで来るともう本物の死体の方が作り物のように思える。

「ヒッ……!」

慌てて離れようとするが両手を縛られているので上手く動けず、横にあった眠り姫の死体を蹴ってしまった。

ごとりと固いマネキンのように眠り姫が倒れて、その腕に抱かれていた少女の首が落ちる。

虚ろな瞳と目が合った瞬間、ユキは金縛りにあったように体が動かなくなってしまった。

「見てごらん?この美しい光景を。彼、彼女らは今完全に自分の全てをさらけ出して無抵抗だ!綺麗だろう?」

「っ……」

「生きていた時の姿、声、感情を知っているからこそ美しいと思える。これほど素晴らしい役者がいると思うか?フフ、アハハハ!!」

恍惚の笑みを浮かべて死体を眺める男子生徒を見て、ユキは完全に怯え切っていた。

ここまで常軌を逸した人間に会うのは初めてだ。

あゆみも正気を失い掛けていたがここまで歪んではいなかった。

男子生徒が発する声、行動、その全てが恐ろしくてたまらない。

自分の命を掌の上で弄ばれているような気分だ。

それでも気を失う事はなかったし、無意味に叫ぶような事もなかった。

心底怯えながらもそれを決して表に出す事はない。

いついかなる時も堂々と振舞え。

それが跡部家の家訓であり、父の教えでもある。

誰に何を言われようと、馬鹿な奴だと笑われようとも、人に弱みを見せてはいけない。

病弱な身でも幼い頃から兄と一緒に叩き込まれて来た掟だ。

ほとんど無意識ではあったが、ユキはきつく唇を噛み締めると姿勢を正して真っ直ぐ男子生徒に向き直った。

「あ、あなたは何の為にこんな事を……?」

震えそうになる声を必死に抑えて男子生徒に尋ねる。

そんなユキを見て男子生徒は珍しいものでも見るように眼鏡を直して膝をついた。

「何の為?そんな事は決まってるさ。これは"繭"への弔いだ。最高の劇をあいつへ贈るんだ」

「ま、繭さん?……その人の為の劇?」

「この美しい光景を永遠に留めておく事はできない。だからこそ価値がある。君もその一部となって最高の劇を演じるんだ」

「っ……」

サバイバルナイフを目の前に突きつけられて心臓が跳ね上がる。

それでも決して視線を逸らそうとしないユキを見て、男子生徒は嬉しそうに笑った。

「君はきっと最高の役者になれる。誰よりも美しい画になれる。あいつは可愛いものが好きだからきっと喜ぶ」

歪んだ笑みを浮かべながら男子生徒がナイフでユキのシャツを切り始める。

このままではきっと殺される。

そう思ったユキは男子生徒に頭突きをして怯んだ隙に床を転がってステージから落下した。

衝撃で呼吸が止まりそうになるが休んでいる暇はない。

そのまま鉛筆のように転がって逃げようとした時、ステージから飛び下りた男子生徒に掴まって身動きが取れなくなってしまった。

「痛っ……」

「ダメじゃないか。役者が舞台から転げ落ちるなんて。やっぱり生きている奴は煩くて仕方がないな」

髪を鷲掴みにされて喉元にナイフを突きつけられる。

切られたシャツがはだけて下着が丸見えになってしまうが、そんな事に構っていられる余裕は微塵もなかった。

命の瀬戸際で必死に抗おうとするが両腕を縛られた状態では満足な抵抗もできず、目に涙が滲んでいく。

「どうしたんだ?笑えよ。怖いのなら楽しい事を思い浮かべればいい。家族と過ごす時間、友達と遊んでいる自分、"恋人"の事とかさあ?」

「!」

振り上げられるナイフ。

今度こそ殺されてしまう。

そう思った時、頭に浮かんだのはいつも一緒にいる少年の笑顔だった。

「っ……助けて、赤也!!」


→To Be Continued.
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