クレイジー

氷帝学園中等部の体育館は部室棟の東に位置し、武道場、体育倉庫と隣接している。

明かりはついているものの、非常用ライトが点灯しているだけなので非常に暗い。

「幸村、二階はどうだ!?」

暗闇から聞こえて来る真田の声に、幸村は目の前の扉を確認して小さくため息をついた。

「いや、こっちも開かない!」

するとそこへ反対側の通路を調べていた柳が来て静かに首を振った。

「向こうも確認したが反対側から何かで押さえつけられているのか開かなかった」

「こっちも鍵が掛かっている感じはしないな。だが現状、内側からは開けられそうにない」

幸村と柳が一階に戻ると、そこへ真田がやって来て二人にタグのついた鍵を見せた。

「ステージを調べていたら幕の裏に箱があって、その中にこの鍵が入っていた」

「武道場って書いてあるね」

「向こうに鍵の掛かった扉があったはずだ。あの先が武道場になっているのかもしれない」

「それじゃあ行ってみようか」

「待て!」

歩き出す二人を制止して真田はステージを振り返り険しい表情で言った。

「確かに鍵は見つけたが、これは何かの罠かもしれん」

「どういう事だい?」

「ステージにある"宝箱"を見てみろ。ただし絶対に触れるなよ」

幸村と柳がステージに上がって幕の裏を覗き込むと、そこには確かに"宝箱"があった。

演劇用の小道具なのか、小さい割には細部までよく作り込まれている。

「この中に鍵が入ってたのか」

「そのようだな。……ん?幸村、上を見ろ!」

ふと柳が何かに気づいて声を上げた。

幸村が頭上を見上げると、舞台幕用のレールに奇妙な物がぶら下がっていた。

「あれは……!」

「どうやらこの宝箱の蓋が開くとロープが引っ張られて"刃物の束"が落下する仕組みになっているようだ」

宝箱を見つけた真田が罠に気づき、蓋を開ける前にロープを外したので刃物は落下していないが、もし気づかずに蓋を開けていたらおそらく無事では済まなかっただろう。

「……これではっきりしたな。"デスゲーム"の犯人は本気で俺達の命を狙ってる」

「ああ。油断はできないな」

警戒心を強めた二人は真田と合流すると、慎重に鍵を開けて武道場へと移動した。

「しかし奴は一体何の為にこんな事をしているんだ。我々に恨みがあるのならこんな回りくどい真似をせず、正々堂々勝負をすればいいだろう」

「恨みか……確かに動機としては有り得なくはないけど、本人はゲーム感覚でやっているのかもしれないよ」

「馬鹿な。あれは明らかに殺人未遂だぞ?遊び感覚でやっていい事ではない」

「それが正常な判断だけど、それが犯人にも当てはまるとは限らない。退屈が理由で無差別殺人をする人間がいるくらいだからね」

幸村の意見に柳も同意して頷く。

「犯人が何らかの理由で正常な判断を失っているのならば、遊び感覚で度の過ぎた悪戯を仕掛けてもおかしくはない。慎重に行動すべきだろう」

「それにしても真田はよくあの罠に気づけたね。昼間ならまだしもこれだけ暗いとなかなか気づけないよ」

「ふざけた放送に怪しい箱だぞ?罠があると警戒するのが普通だ」

「頼もしいね」

会話をしつつ武道場の中を調べていると、柳が非常用のロウソクとマッチを見つけた。

「ふう……気休め程度だけど明かりがあるとやっぱりほっとするね」

「しかしこっちも出入り口は全て封鎖されているな」

「ゲームをすると言っている以上、このままで終わるはずがない。いずれ何か変化が起こるだろう」

「そう願いたいけど……」

幸村が呟いた時だった。

突然真田が二人を突き飛ばして横に跳んだ。

一拍遅れて何かが弾けるような音が響き渡る。

「何だ!?」

「今のは……銃声!?」

闇の中で人影が動き、柳が素早く二本目のロウソクに火をつけて辺りを見回した。

すると壁際に拳銃を手にした男子生徒が立っていた。

「勘の鋭い奴だな。本当に中学生か?」

「貴様!」

「いきなり銃を撃って来るなんて……もしかして君が"デスゲーム"の主かい?」

警戒しつつ幸村が尋ねると、男子生徒は銃口を向けたまま口元に笑みを浮かべた。

「ゲーム?……まあ、そうだな。確かにゲームみたいなものだ。命懸けの鬼ごっこってところか」

「どうして俺達を狙う?」

「別に理由なんてどうだっていい。俺はただ見てみたいだけだ。命の輝きってやつを」

「何だと?」

「本当の意味で相手を理解する……俺を理解させる方法。ここでは"学校に殺される"のも俺に殺されるのも同じ事だ。どうせみんな死ぬんだからな!!」

「!」

銃声が響き渡り、幸村達は体育館へと引き返した。

「扉が開いてる!」

「早く外へ!」

出口へ向かって走る三人の後ろで男子生徒が笑いながら銃を構える。

飛び交う弾丸をどうにか回避しながら外へ飛び出した三人だったが、銃弾に追われている状態ではロクに話し合う事もできなかった。

「このままでは捕まる!一旦別れよう!」

「ああ!」

「気をつけろ!」

三人は散り散りになって逃げ出し、銃撃した男子生徒は少し迷ってから逃げた内の一人を追い掛けた。

「足掻いてみせろ!ククッ……アハハハハハ!!」

「っ……」

銃声に追われるように幸村は校舎内へと逃げ込むのだった……。


→To Be Continued.
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