Chapter2

「お兄ちゃん、健兄……大丈夫かな?」

不安げな表情で尋ねるユキに刻命は大丈夫だと答えて笑みを浮かべる。

袋井と結衣が保健室を出て行ってから何度も繰り返したやり取りだ。

相変わらず校舎は停電したまま、机の上に置いてある蝋燭もだいぶ減ってきた。

ベッドで眠る跡部もまだ目を覚まさない。

忍足と日吉はベッドの横の丸椅子に座って何事か話しているが、刻命は旧校舎の出来事が頭から離れず行方不明になっている黒崎と凍孤の事が気掛かりだった。

だが四つん這いの女の事を話しても、美月は寝惚けていたのだろうと真剣に取り合ってはくれなかった。

「……」

気づかれないようそっとため息をついて、刻命は静かに席を立った。

袋井は自分達が戻るまでここでじっとしていろと言っていたが、やはり黒崎達の事が気掛かりで落ち着かない。

部室棟に向かった結衣や袋井の事も気になる。

なんせC棟から部室棟に続く渡り廊下は校舎の外にあるのだ。

あの女がいたB棟の昇降口からは離れているが、女がずっとあの場に留まっているという保証はない。

「山本、俺は黒崎達を捜してくる」

「え?」

「!」

刻命の言葉に美月とユキが驚きの表情を浮かべる。

「やっぱりどうしても気になるんだ。袋井達が戻って来たら伝えて置いてくれ」

「ちょっと待って!捜すって言ったって、校舎内は停電して真っ暗なのよ?そりゃ予備の懐中電灯はあるけど動き回るのは危ないわよ」

「大丈夫だ。もし万が一見つからなかったとしても、校舎内を一周して戻って来るつもりだ。そんなに時間は掛からない」

「だけど……」

「お前だって霧崎の事が心配なんだろ?」

「それはそうだけど……」

「とにかく行き違いになったら困るからお前はここにいてくれ」

そう言うと刻命は真っ直ぐ出口へと向かい扉に手を掛ける。

それを見てユキは慌てて席を立ち兄の腕を掴んだ。

「私も行く!」

「駄目だ。お前はここで待っていてくれ」

「やだ!お兄ちゃんが行くなら私も行く!……私だって健兄が心配だもん……」

「すぐに戻って来るから」

刻命がそう言うと、ユキはぎゅっと強く刻命の腕にしがみついて足を踏ん張った。

意地でも譲らない様子を見て、刻命は深いため息をつきながら懐中電灯を手にする。

「……わかったよ。ただし絶対に俺の側から離れないこと。約束できるな?」

「!、うん!」

ユキは嬉しそうに頷いて刻命の腕を解放する。

「……」

二人の様子を見ていた日吉は、隣にいた忍足に何事か伝えると急に席を立って刻命達に歩み寄った。

「日吉君?」

「俺も行く」

「え?」

きょとんとした顔でユキが日吉を見上げる。

「ここでじっとしてても何の解決にもならない。それに俺も気になる事がある。それを確かめに行く」

「?」

ユキは不思議そうな顔で日吉を見ていたが、行く気満々の3人を見て美月は呆れたようにため息をついた。

「全くもう……止めても無駄みたいね。わかったわ。じゃあ結衣先生には私から伝えて置く。刻命君、黒崎と凍孤のことよろしくね」

「ああ」

刻命は頷いて保健室の扉を開けた。


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