Book of Shadows

「どうなっているんだ……ここもネクロノミコンが作り出した悪夢なのか?」

辺りを見回して俺は困惑した。

そこは確かに氷帝学園のカフェテリアで、窓の外から月明りが差し込んでいた。

「どうしてこんな所へ……」

訳がわからず考え込んでいると、ふと視界の隅で何かが動いた。

「!」

それは一瞬だったが確かに制服を着ていた。

女子生徒に見えたが顔はよくわからない。

慌てて廊下に出ると、教室の中から明かりが漏れている事に気づいた。

何だか気味の悪い音も聞こえて来る。

警戒しつつ扉を開け中を覗き込むと、教室の真ん中にうずくまって何かを食べている男子生徒の姿があった。

あれは……立海大附属中の制服だ。

背を向けているので顔は見えないが、あの目立つ赤い髪を見間違うはずがない。

「どうしてここに……!」

言い掛けた俺の言葉は途中で途切れて微かな呻き声へと変わった。

濃い血臭さえも霞んでしまうような耐え難い異臭。

あらゆる汚物が混ざり合ったような生理的嫌悪の塊。

床の上にぶちまけられた内臓と肉片がその原因なのかもしれない。

「っ……」

丸井はまるで何かに取り憑かれたかのように、その耐え難い汚物を喰らっていた。

ぞっとするようなその光景に、俺は眩暈がして壁に背を預けた。

呼吸をしようにも口を開ければすぐに異臭が入り込んで来て強烈な吐き気に襲われる。

どうにか持ち堪えて教室から出ると、俺は壁に手をついてしばらく深呼吸を繰り返した。

あれは幻覚だ。……本物ではない。

わかっていてもおぞましい光景に全身が震える。

この悪夢の世界にあいつがいるはずがないし、そもそも中学時代の姿で俺の前に現れるはずがない。

また誰かの意識と同調しているのか?

いや、それにしては希薄だ。

ここは本当に天神小学校の悪夢の中なのか?

これは……この悪夢は一体誰のものなんだ?

壁に手をついたまま俺が考え込んでいると、ふと子供の笑い声が聞こえた。

声は階段の横にあるトイレから聞こえて来る。

「……」

正直気が進まない。

だがこのままここでじっとしていても事態は好転しないだろう。

ここが悪夢の世界ならば、気を強く持たないとあっという間に狂ってしまう。

「……誰かいるのか!」

トイレの入り口に立って俺は出来る限り強く呼び掛けた。

返事はないが、個室の扉が風もないのに開閉を繰り返している。

近づいて扉を開けてみると、そこには切原の首吊り死体がぶら下がっていた。

骨が折れているのか、首は変な方向に折れ曲がっている。

俺はすぐに扉を閉めて廊下へと戻った。

一体何が起きているのか、これが誰の悪夢なのか、何もわからない。

ただすこぶる気分が悪い。

「ふふふ……」

声が聞こえ、振り返るとそこにサチコが立っていた。

こいつが現れたという事は、やはりここは天神小学校の悪夢なのか。

「どういうつもりだ?」

吐き気を堪えながら俺はサチコを睨みつけた。

サチコは相変わらず楽しそうに笑っている。

「お前の目的は何だ!俺を振り回して何が楽しい!」

サチコは答えないまま闇の中へと姿を消した。

俺は仕方なく階段を上って1階の事務室へと向かった。

期待はしていなかったがやはり電話は通じず、外への出口も開かなかった。

氷帝学園は主に中学生が使用する西棟と高校生が使用する東棟で構成されている。

体育館などの建物も隣接しているが、普段生徒が一番多く集まるのがこの西棟と東棟だ。

二つの建物は渡り廊下で繋がっていて、地下にはカフェテリアや図書室、1階には職員室や事務室などがある。

3階にはグローバルゾーンもあって、計4階建ての立派な建物になっている。

卒業してからも何度か足を運んだ事はあるが、まさかこんな形で再び訪れる事になるとは思っていなかった。

今ここで起きている事がサチコの仕業ならば、あいつを見つけ出すしかここから脱出する術はない。

奴の目的は不明だが、さっきの態度からして俺を振り回して楽しんでいるんだろう。

「……ふう」

俺は深いため息をついて気持ちを落ち着けると、2階へ上がり中等部の教室を見て回る事にした。


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