最終章 天上
「なんでお前らがここにいる?」
氷帝学園の正門の前で跡部は目の前に立つ立海メンバーを見て眉間に皺を寄せた。
「卒業祝いに不動峰が焼肉パーティーをしているらしくてね。一緒にどうかと思って誘いに来たんだ」
「奇遇だな。俺達もこれから向かう所だ」
「ふふ、そうだと思ったよ。今日は鬼碑忌さんが卒業祝いに奢ってくれるって話だったからね」
穏やかな笑みを浮かべて幸村が歩き出す。
「よっしゃ!今日は食いまくるぞ!」
「腹壊すんじゃねえぞ、ブン太」
「大丈夫っスよ、丸井先輩の腹は底無しだって言ってましたから」
はしゃぐ赤也達に続くように忍足達氷帝メンバーもパーティー会場へと向かう。
「はあ……程々にしておけよ」
跡部はそう釘を刺してから一人踵を返して車へと向かった。
「跡部?」
「俺様は用事がある」
「来ねえのか?」
「後で行ってやる」
そう返事を返して跡部は迎えの車に乗り込んだ。
運転手がため息をつく跡部を見ながら車を発進させる。
「……ん?何だこれは」
柔らかいソファーの上に置かれたプレゼント箱を見て跡部は運転手に尋ねた。
「ああ、それ田嶋さんが持って来たんですよ。朝起きたら机の上に置いてあったとかで。景吾さん宛てのプレゼントだったので、僕が預かって来たんです」
跡部はプレゼント箱を手に取ると、リボンを解いて中を確認してみた。
入っていたのは跡部宛てのメッセージカードと品の良い万年筆だった。
メッセージカードには卒業を祝う言葉と"お兄ちゃんへ"と記されている。
跡部はメッセージカードを読むとそっと箱を元に戻してソファーの上に置いた。
「誰かの荷物と間違えたんだろ。俺様に"妹"はいない」
「あれ?違ってました?おかしいな。てっきり奥様からの卒業祝いかと……」
「後で田嶋に伝えておけ」
「はい。すみません」
跡部はため息をつくと窓の外を流れる景色に目をやった。
春の匂いを含んだ風が跡部の前髪を揺らす。
流れる景色を見つめていると不意に涙が零れ落ちた。
理由はわからない。
風のせいだろうと手で涙を拭うと、プレゼント箱のそばに置いてあったリボンが風で舞い上がって窓の外へ飛んでいった。
澄み渡る青空へと飛んでいくリボンを見つめながら、跡部は何故だか寂しさを感じていた……。
→あとがき
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