最終章 天上

「ユキ、足元に気をつけろ」

「うん……」

跡部に手を引かれながらユキは暗い地下道を進んだ。

二人の後ろから幸村と赤也も続く。

応接室でブン太達のメッセージを見た後、彼らの後を追って校長室へと向かい、隠し通路を通ってこの地下道に来たのだ。

「……お兄ちゃん。ありがとう。助けに来てくれて」

ユキは兄の手をぎゅっと強く握り締めながらお礼を言った。

その手を握り返しながら跡部は優しい笑みを浮かべる。

「当然だ。お前は俺様の妹なんだからな」

「うん……ありがとう」

心が洗われていくように不安も恐怖も消えていく。

もう二度と会えないと思った"お兄ちゃん"に会えたのだ。

こんなに嬉しい事はない。

「幸村部長!着いたみたいっスよ!」

赤也が前方を指差して叫んだ。

湿っぽい通路を抜けるとそこは大きな空洞になっていた。

そこに真田達の姿と、忍足、宍戸の姿があった。

「跡部!」

「ユキちゃん、よかった。心配してたんやで」

「亮、侑君……」

「精市、やっとこれで全員揃ったな」

「赤也、ったく来るのが遅えよ」

「こっちだって色々あったんスよ!」

「それにしてもどうせ再会するならもう少し色気のある場所にして欲しかったのう」

「まさか仁王君達が先にここへ来ていたとは思いませんでした」

「宍戸の動物的直感が働いた結果ぜよ」

「よし!崩れたぞ!」

スコップで壁を崩していた真田が額の汗を拭いながら顔を上げると、そこには赤いワンピースを着た小さな白骨死体が眠っていた。

「蓮二」

「ああ、わかっている」

柳が一歩前に出て持っていた巾着袋の口を開く。

これは柳が校長室の机の引き出しから見つけた物だ。

中に入っている人間の舌を取り出して白骨死体に返すと、そこにサチコの霊体が現れて感謝の気持ちを伝えた。

「おい、宍戸。あれを出せ」

跡部に言われて宍戸はずっとポケットに入れていた線香の事を思い出してサチコの遺体の前に置いた。

持っていたライターで火をつけると、サチコの霊体が徐々に薄れて線香の煙と一緒に天へ昇っていった。

「あの線香は?」

「跡部から渡されたのすっかり忘れてたぜ。けどこれで少しは供養になったかもしれねえな」

「揺れてる……?また地震か!」

「ここは危険だ。上に戻ろう」

「こっちだ!俺様について来い!」

跡部がユキの手を引きながら皆を先導する。

昇降口まで来た所で柳生が七星から預かった札を床に置いた。

「この呪符を燃やして下さい!」

「宍戸!」

「わ、わかったよ!」

何が何だかわからないまま宍戸はライターで呪符に火をつけた。

「そうだ、これも……」

とっさに残っていた線香も一緒に置いて火をつけた。

宍戸が崩れる校舎から脱出すると同時に呪符が燃え上がり、天神小学校の校舎全体が赤い炎に包まれた。

線香の煙が迷える魂を導くかのように天へと昇っていく。

「皆、集まれ!」

幸村の号令で立海レギュラー陣が慌てて駆け寄る。

「これから逆打ちをする!皆、切れ端を合わせるんだ!」

「了解!」

切れ端を取り出す赤也達の隣で跡部達も自分の切れ端を取り出す。

「忍足、宍戸、俺達もやるぞ!」

「これでやっと帰れるな」

皆が安堵の表情を浮かべる中でユキは一人燃え上がる天神小学校を見上げた。

ここに来てから色々な事があった。

怖い事も辛い事もたくさんあった。

でももう終わる。

これが終焉なのだ。

「ユキ」

赤也の声にユキはポケットに入っていた学生証から切れ端を取り出して頷いた。

全員の切れ端が合わさる。

「……さようなら……」

別れの言葉を告げてユキは静かに両目を閉じた。

燃え上がる天神小学校と共に眩い光に包まれる。

瞳から零れ落ちた涙が頬を伝って地面に消えていった。


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