最終章 天上

その頃、跡部は赤也、幸村と共にユキを捜して本館を彷徨っていた。

赤也が理科室の扉を開けてうっと呻いて後ずさりする。

そこは以前訪れた時と同じように死体の山だったが、真新しい遺体が一つ増えていた。

出入り口付近に倒れた男性。

男性であるという事以外にわかるものは何もない。

頭はぐちゃぐちゃに潰れて上半身は血の海の中に沈み、着ている物が何なのかもよくわからない。

だが広がる血はまだ完全には乾いていないので殺されてからそれほど時間は経っていないようだ。

「くそ、いい加減嫌になってきたぜ。どこ行っても死体ばっかで頭おかしくなりそう」

理科室の扉を閉めて赤也はうんざりした様子で呟いた。

「嘆いてる暇があったら足を動かせ。置いて行くぞ」

そう言って跡部は先を急ごうとするが、また地震が起きて壁際に避難した。

揺れが治まってから歩き出そうとすると、そこに赤い服を着た少女が立っていた。

「お前は……」

少女はすっと窓の外を指差して消える。

「な、何なんだ、今の……」

「あの子は渡り廊下で会った……」

「外を見ろって事か?」

廊下の窓から中庭を見た跡部は花壇のそばに横たわる人影を見つけて血相を変えて走り出した。

「お、おい!」

「赤也、急ごう!」

困惑しつつ赤也と幸村もその後に続く。

3人が中庭に飛び出すと、そこに男物のブレザーを着たユキが倒れていた。

「ユキ!!」

真っ先に駆け寄った跡部が慌てて妹の体を抱き起こすが、左足の怪我以外に目立った外傷は見当たらない。

「ユキ、起きろよ!ユキ!」

顔についた血を手で拭いながら赤也が叫ぶとユキが僅かに身じろいだ。

そっと瞼が開く。

「ユキ!」

「……お兄ちゃん……?」

「ああ。迎えに来た。……もう大丈夫だ」

「……お兄ちゃん……!」

ユキは跡部にしがみついて幼い子供のように泣きじゃくった。

普段人前では決して弱音を吐かないユキがこれほど泣くのだから、よほど怖い目に遭ったに違いない。

「遅くなって悪い。無事でよかった……。一緒に帰ろう、ユキ」

跡部は凍え切った妹の体を抱きしめて誓うようにそう言った。


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