第十二章 観念
「やっぱりここにはいねえか」
理科室の扉を開けて赤也はがっくりと肩を落とした。
途中で橘達と別れて真っ先にこの理科室へ来てみたが、ユキの姿はどこにもない。
いや、ない方が良かったと言えるだろう。
ここは血と臓物に塗れた死体の宝庫だ。
赤也は無言で扉を閉めるとユキを捜して廊下を歩き始めた。
すると廊下の角でばったりと誰かに出くわした。
一瞬あのハンマー男に見つかったのではないかとひやりとしたが、顔を上げて赤也は驚いた。
「なんであんたがここに!?」
「……チッ、てめえか切原」
出会って早々、跡部は舌打ちして深いため息をつく。
それから手に持っていたリモコンのような物をポケットにしまって赤也を睨みつけた。
「ユキはどこにいる?なんでてめえがユキの携帯電話を持ってやがる」
「携帯?」
そう言われて赤也はユキの携帯電話を預かっていた事を思い出し跡部に渡した。
相変わらず電源は入らないが、携帯電話の下部に取り付けられた小さなチップを手に取って跡部はそれを握り締めた。
「それ何スか?」
「発信機だ」
「はあ?」
「いつも携帯の電源が入っているとは限らないからな。念の為に取り付けて置いたが無駄だったか……」
さらりとそう言って跡部はユキの携帯電話をポケットにしまって歩き出した。
困惑しながら赤也もその後に続く。
「それでどうしてあんたがここにいるんスか。まさかユキを捜しに?」
「それ以外に何の理由がある」
「いや……別に」
さすがシスコンキングと思いながら、赤也は途中でユキとはぐれた事を跡部に伝えた。
「それで真田副部長達と別れてこっちに戻って来たんスよ」
「行方がわかっていないのはユキと幸村、それに丸井と仁王か」
跡部は頭の中で情報を整理しながら先へと進む。
やけに落ち着いた様子の跡部を見て赤也は不思議そうに首を傾げた。
「あんたもあのおまじないでここに来たんスか?」
「ああ。あの雌猫の方法でな」
「雌猫?」
「校舎のどこかで鬼碑忌コウ、もしくは冴之木七星という人物に出会わなかったか?」
「いや……誰なんスか、それ」
「知らないならいい。説明するのも面倒だ」
赤也は少しムッとしたが、以前の経験から反論した所で時間の無駄だと判断し口を噤んだ。
「忍足や宍戸にも会ってねえんだな?」
赤也が頷くと跡部はしばらく考え込んで、それからポケットに入っていた御守りを赤也に投げ渡した。
「忍足が用意した物だ。てめえにくれてやる」
「御守り?……これ本当に効くんスか?」
「さあな」
素っ気ない跡部の返事に赤也はとてつもなく不安になったが、とりあえず受け取ったそれをポケットに入れてまた歩き出した。
→To Be Continued.
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