第十一章 死生

「おい!」

左頬に衝撃を受けて仁王は目を覚ました。

起き上がって辺りを見回すと、そこは保健室のベッドの上で目の前に帽子を被った宍戸亮の顔があった。

「……なんでお前がここにいるんじゃ」

「はあ……ったく、こんな状況でよく寝てられるな」

どこか呆れた様子で言う宍戸に、仁王はようやく眠る前の状況を思い出した。

理科室でブン太が様子のおかしい女子高生に殴られ気絶した後、校舎が揺れて気を失ったのだ。

気がついた時、辺りにはブン太の姿も女子高生の姿もなかった。

二人を探している時に小休憩を取ろうとこの保健室に入り、いつの間にか眠ってしまったようだ。

「それより他の奴らはどうした?一緒じゃねえのか?」

「ブン太なら途中まで一緒だったが、気がついたらいなくなってた」

「ユキには会ってねえのか?」

「ミーティングルームではぐれたきりじゃ。お前さんこそどうしてここに?」

「俺だけじゃねえ。跡部と忍足もここにいるはずだ」

「跡部……なるほど。ユキを捜しに来たのか。さすがシスコンキングじゃのう」

「それだけじゃねえけどな」

そう言ってから宍戸はここに来るまでの経緯を仁王に説明した。

跡部、忍足と共にある儀式を行い、天神小学校で起きた惨劇を知り、その運命を変える為に"過去"へ戻った事。

仁王達がおまじないを行い天神小学校で命を落とすという死の運命を繰り返している事。

過去へ戻り、おまじないを止めさせようとしたが間に合わず、仁王達を追ってここへ来た事。

あらかた話し終えてから宍戸は深いため息をついて腕組みをした。

「俺もまだ半信半疑って言うか、正直よく覚えてねえんだけどよ。跡部の奴があんまり必死だったから、忍足と一緒に協力してやったんだ」

「それで例のおまじないをやったのか?」

「ああ。跡部の話じゃネットのブログに書いてあったあのおまじないは間違った方法で、それをやると異世界の天神小学校へ飛ばされるらしい」

「そうらしいのう」

「知ってたのか?」

「鬼碑忌って人のメモを読んだんじゃ。口寄せを逆に利用してここへ来たと」

「行方不明になってる作家か。確かカメラマンもここにいるはずだ」

「……とりあえず歩きながら話すぜよ」

仁王はベッドから下りると深く深呼吸して保健室を後にした。

「さっきの話の続きじゃが、本当に"逆打ち"で元の世界に戻れるのか?」

「同じ人形の切れ端ならな」

「天神小を……この異世界を作り出したのは"サチコ"という少女なんじゃろ?」

「ああ。昭和28年に失踪してそのまま誰にも発見されなかったって話だ。この学校の地下室に遺体があるらしい」

「地下室?」

仁王はふと夢の中で見た薄暗い部屋を思い出した。

二人の少女が虐待されたあの部屋は地下室だった。

ただの夢かと思ったが、あれもこの"悪夢"に関係しているのだろうか。

「"サチコ"の望みを叶えればここから出られるって跡部は言ってたけどよ。地下への入り口は別館にあるんだ」

「別館?他にも校舎があるのか」

「俺もうろ覚えだけどな。確か一階のどっかに渡り廊下があったはずだ」

「渡り廊下……この校舎はブン太と二人で散々歩き回ったがそんな物はなかったぜよ」

「この天神小はなんつーか、違う空間がたくさんあるんだ」

「どういう意味じゃ?」

「俺も上手く説明できねえけど、同じ場所にいてもお互いを認識できねえ状態だって跡部は言ってたぜ」

「認識できない?」

「お前も時々何か違和感みたいなの感じなかったか?校舎の様子が変わってるみたいな……」

「……まあ今更何を言われても驚かんぜよ。しかしそれは厄介じゃのう。同じ場所にいてもダメならどうやってブン太と合流するんじゃ」

「方法があるとすれば地下へ行く事だ。理由はわからねえけど、前はあそこで他の奴らに会ったんだ」

「そうか……。なら一通り校舎内を見回ってから別館へ行くとするかのう」

「ああ」

宍戸は頷いてから思い出したようにポケットの中を探った。

「忘れてた、これ渡しとくぜ」

「御守りか?」

「気休めだけどよ。忍足の奴が念の為に用意してたんだ。もう一つあるから丸井を見つけたら渡しとけよ」

仁王は宍戸から受け取った御守りをポケットに入れてまた歩き出した。

「そういや、保健室で寝てた時お前何をあんなにうなされてたんだ?……まあこんな所で寝てたら悪夢を見るのも無理ねえけどよ」

歩きながら宍戸が尋ねると、仁王は残酷な夢の内容を思い出しながら宍戸に伝えた。

「マジかよ。そんな夢見てたのか?確かにお前すげえ顔色悪かったけどよ……」

「何か思い当たる事は?」

「……子供が殺されたってんなら、たぶん例の誘拐事件じゃねえか?」

「誘拐事件?」

「ここへ来る前に天神小について跡部が調べたんだ。そしたら昭和44年に3人の子供がここで殺されてたんだ。すげえ惨たらしい殺害方法でな」

「……それで?」

「遺体が発見されたのは旧校舎の地下室で、校長が疑われてたみてえだけど結局病気で死んじまったらしくて……」

「……」

「お前が見たのも"校長"だったのか?」

「ああ。そう呼ばれてたぜよ」

「じゃあやっぱり校長が犯人だったのかもな」

「……"サチコ"は失踪しとるんじゃろ?鬼碑忌さんのメモにもそんな事が書かれてたはずじゃ」

「ああ。……ちょっと待て。まさか"サチコ"も校長に殺されたってのか?」

「さあ、わからんぜよ。俺が見たのもただの夢かもしれん」

「でも確かに気になるな。お前が見た夢でも地下室で子供が殺されてたんだろ?ならやっぱり"サチコ"も……」

「"サチコ"を見つければ真相がわかるかもしれんのう」

そう呟きながらも仁王は、夢の中で見た赤い服の少女の事が頭から離れずにいた。


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