第八章 端倪

刻命と出会い校舎の探索を進めるユキは、尋常ではない左足の痛みに顔を歪めて立ち止まった。

「そこの教室で少し休もう」

「っ……すみません」

肩を借りながら教室の椅子に腰を下ろしたユキは、赤也が巻いてくれた左足の包帯をさすりながら深いため息をついた。

「どこかで痛めたのかい?」

「実は……」

ユキが事情を話すと、刻命は近くに落ちていた木片を拾ってユキの包帯に手を掛けた。

「少し痛むかもしれないが」

「大丈夫です」

刻命は慣れた手つきでユキの左足に添え木をし丁寧に包帯を巻いていく。

すると足の痛みが引いて歩いてもさほど苦痛を感じなくなった。

「凄い……全然痛くない!」

「応急処置だからあまり長くは持たないかもしれないが、少しは歩きやすいだろう」

「はい!ありがとうございます!」

ユキがお礼を言って歩き出そうとした時、ふと刻命が後ろを振り返って息を呑んだ。

視線を追って振り返ったユキは、窓際に佇む血塗れの少年を見て漏れかけた悲鳴を慌てて飲み込んだ。

いつからそこに居たのか、少年は黙ったままじっと二人を見つめている。

「……目を合わせない方がいい。行こう」

「あ……はい」

ユキは頷いて出口へと向かうが、少年の訴えかけるような眼差しが気になって仕方がなかった。

だが血塗れの少年は教室を出てもユキ達の後について来た。

何か伝えたい事があるのか、しきりに唇を動かしているが声は出ない。

「……刻命さん」

気になったユキは刻命を呼び止めるが、彼はちらりと後ろを振り返っただけで静かに首を振った。

「相手にしない方がいい」

「でも……あの子、何か伝えたい事があるんじゃ……」

「そうだとしても、下手に踏み込むと余計な災いを招く。ただの同情なら止めた方がいい」

「……」

ユキは少し迷ったものの、刻命の言う通り自分はただの中学生で霊媒師でもそういう知識を持つ人間でもない。

可哀想だとは思うが、今は赤也と幸村を捜す事が先決だ。

「そうですね。……先を急ぎましょう」

ユキは素直に刻命に従って足を速めた。

しばらくして一階の北西廊下を通り掛かると、赤也と来た時には開かなかった体育館の扉が半分開いていた。

中に入り奥にある倉庫の中を確認すると、棚の上に古いバールが置かれていた。

「これでどうにかなるかもしれないな」

「何がですか?」

「階段前の廊下の穴を渡りたいんだろう?」

「はい。でも、どうやって?」

ユキは不思議に思ったが、刻命には何か考えがあるようなので大人しくついて行く事にした。

昇降口前でバールを使って掲示板を取り外し、それを廊下の穴の上に置くと橋ができた。

「教室の扉じゃガラスの重さで落ちる危険性があるが、これなら大丈夫だろう」

「まさか掲示板が橋になるなんて思ってませんでした。でもこれでようやく渡れますね」

廊下のつきあたりにある正面の扉は板で封じられているが、バールを使えばこじ開けられそうだ。

だが今は西側のどこかのいる幸村を捜す方が先決だろう。

ユキは一つ深呼吸すると、刻命の後を追って階段を上った。


→To Be Continued.

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