第二章 再来

「ん……」

体に重みを感じてユキは目を開いた。

「え!ブンちゃん!?……あれ?」

驚いて辺りを見回すと、自分の体の上にブン太がうつ伏せに倒れ、横に薬瓶などが入っていた棚が倒れていた。

倒れた衝撃でガラス戸が割れ、中に入っていた薬瓶が床に転がっている。

「……赤也?」

部屋の中を見回すが赤也の姿がない。

声を掛けても返答はなく、ユキは慌ててブン太の体を揺すった。

「ブンちゃん、起きて!赤也がいないの!」

「うっ……痛ってえ……」

後頭部をさすりながらブン太が起き上がる。

どうやら地震の影響で倒れた薬棚からブン太が庇ってくれたようだ。

「怪我してねえだろうな?」

「うん。ありがとう、ブンちゃん」

「痛つ……あー頭打った。あれ?赤也の奴、どこ行ったんだ?」

「わかんない。気がついたらどこにも……」

言い掛けてユキは背筋が凍りついた。

赤也がいなくなり、真田と二人で捜し回ったあの時。

……そうだ、前にも同じ事があったじゃないか。

「まさか……ブンちゃん、早く!」

「は?どうしたんだよ、急に」

「赤也が危ないの!早く来て!」

ユキは困惑するブン太を連れて三階の女子便所へと走った。

杞憂であればいい。

けれどもし前と同じ事が起きているのであれば、赤也の命が危ない。

階段を駆け上がり三階の廊下まで来た所でユキの顔から血の気が引いた。

廊下の隅に転がる見覚えのあるスニーカー。

暗闇の向こうから響いて来る扉の開閉音。

……同じだ、あの時と。

「赤也!!」

ユキはすぐに女子便所の中に飛び込んで個室の扉を開けた。

するとそこには、以前と同じ光景が広がっていた。

天井の梁に通された太いロープ、呻き声を上げながらもがき苦しむ赤也の姿。

「なっ……赤也、お前何やってんだよ!」

遅れて来たブン太も吊るされた赤也を見て驚愕の表情を浮かべる。

二人はすぐに赤也の首を縛るロープを解こうとした。

だがどんなに必死に手を伸ばしても首の後ろの結び目に手が届かない。

元々ユキもブン太も赤也より身長が低い。

その上、今の赤也は首に食い込むロープに体を持ち上げられ、通常よりも高い位置にぶら下がっている。

前と全く同じ状況だが、違う事が一つだけある。

それはここに、真田がいないという事だ。

以前はユキが赤也を肩車してロープと首の間に隙間を作り、真田がロープの結び目を解いて赤也を救出した。

しかし今度はユキが赤也を肩車したとしても、ブン太の身長では赤也の首に手が届かない。

「くそ、どうすりゃいいんだよ!……と、とにかくこのままじゃ首の骨が折れちまう!」

ブン太が暴れる赤也の体を押さえて肩車をする。

ロープと首の間に僅かに隙間ができた事で赤也の首が体重によって折れる心配は無くなったが、このままではまともに呼吸ができない。

「ブンちゃん!」

「ユキ、何か足場になる物探して来い!俺が赤也を支えてっから早く!」

「わ、わかった!」

ユキは女子便所を飛び出して廊下を見回した。

目についたのは廊下のつきあたりに置いてあったバケツだった。

これを足場にすればどうにか結び目に手が届きそうだが、バケツの中には気味の悪い肉片のようなものが押し込まれ大量の蛆が沸いていた。

「っ……迷ってる時間なんて!」

一瞬怯んだものの、ユキはすぐに迷いを捨ててバケツを手に取った。

目をつむってバケツをひっくり返し、中に入っている肉片と蛆を放り出す。

空になったバケツを抱えてユキが女子便所の中に戻ると、ブン太が暴れる赤也の両足を抑え込みながら必死で重さに耐えていた。

「ブンちゃん頑張って!今解くから!!」

「っ……」

歯を食いしばりながらブン太が耐える。

その間にユキは裏返したバケツの上に乗って赤也の首を縛るロープに手を伸ばした。

「もう少しっ」

人差し指がロープの結び目に掛かろうとした次の瞬間、腐ったバケツの底が抜けてユキはその場に倒れ込んだ。

それと同時に赤也の体が大きく揺れてブン太が体勢を崩した。

「!」

何かが、その瞬間に終わりを告げた。

「っ……あ、赤也……」

力を失った赤也の体はだらりと垂れてロープと一緒にゆらゆらと揺れている。

ユキもブン太も言葉を失い、ただ静かに揺れる赤也の姿をじっと見つめていた。

「……嘘、だろ?」

ぽつりとブン太が呟いた。

「な、なあ赤也、お前……そんな……っ」

赤也がもう生きていない事は誰の目にも明らかだった。

赤也の首は変な方向に折れ曲がり、見開いたままの目は生気を失って虚無を見つめ続けている。

「っ……どうして……」

揺れる赤也の体を目にしてユキはただ愕然とした。

今度こそ、助けられるはずだった。

その為に自分達はここへ戻って来た。

けれど……何だ、これは。

全てを取り戻すと誓ったはずなのに、また仲間を……親友を失ってしまった。

また自分が赤也を殺してしまった……!

「嫌……嫌ああああああ!!!」

静まり返る校舎に愚かな娘の慟哭と絶叫だけが響き割った……。


→To Be Continued.

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