If…堕ちた帝王side.B
「くそ!」
霧の中を走りながら跡部は自分のふがいなさに憤怒した。
ユキが自分の行動を誤解する事は承知の上だったが、あのタイミングでユキに再会する事は考えていなかった。
このままでは時間切れを迎えて全員の首輪が爆発してしまう。
爆弾を解除するにはもう一度ユキ達に接触し、政府に知られぬよう事情を伝える必要がある。
「っ…」
息を切らしながら跡部は島の中央にある民家に辿り着き、しばらく様子を窺った。
霧はだいぶ晴れたが、視界が良好とは言えない。
するとある民家の扉が開いて、ブン太が外の様子を窺いながら裏にある倉庫へと向かった。
「……」
このチャンスを逃す事はできない。
跡部はガバメントをしまうと代わりにハンカチを取り出して倉庫に近付いた。
倉庫の中は薄暗く、中央にある小さな電球だけがぼんやりと中を照らし出していた。
ブン太は食料を探しに来たのか、奥にある缶詰などを手当たり次第に袋に詰めている。
その背後にゆっくりと近付き、跡部は持っていたハンカチでブン太の口を塞いだ。
「!」
驚いたブン太が暴れる前に、事前に用意してあったメモを見せる。
"黙れ。首輪の爆弾を解除する。一言も喋るな"
急いで書いた文字は少し歪んでいたが、ブン太はどうにか理解できた様子で、動揺の色を浮かべながらも小さく頷いた。
「……よし、もういいぞ」
ブン太の首から首輪を外して爆弾と盗聴器を解除した跡部はそう言ってブン太の首から手を離した。
「はあ……マジで心臓止まるかと思ったぜぃ。やるならやるって先に言えっての」
「アーン、馬鹿か。声を出せば計画が全て水の泡だ」
「そりゃそうだけど…。しっかしこの首輪、こんな簡単に外せるもんなのか」
「内部の構造がわかっていればな。…それよりユキは無事なんだろうな?」
ブン太はまだ首をさすりながら頷いて答えた。
「部屋で赤也の手当てしてるぜ。たぶんまだ寝てるだろうけど」
「…まあいい。とにかくお前は南の海岸に行って宍戸達と合流しろ」
「あいつ生きてたのか!」
「ああ。死を偽装して海岸付近で待機してるはずだ。プログラムが終わった後、優勝者を迎えに来る政府の船を奪う」
「そんなことできるのかよ」
「できなきゃ全員死ぬだけだ」
跡部の言葉にブン太は黙り込む。
と、その時、外から足音が近付いて来た。
「早く隠れろ!」
「わっ!」
半ば強引にブン太をダンボールの後ろに押し込み、跡部は開く扉の後ろに身を隠した。
「おいブン太、いつまで探して…」
倉庫内に入って来たジャッカルが背を向けた瞬間に、跡部はブン太の時と同じようにメモを見せて首輪の解除に取り掛かった。
ジャッカルの首輪も解除した後、跡部は二人に自殺を偽装する為のメモを書くように指示を出した。
「はあ?遺書を書く?俺が?」
「そうだ。ユキがてめぇらを捜しに来るのは時間の問題。その時ここに死体がなければ坂持の奴に疑われる。遺書を扉に貼って中に入れないよう鍵を壊して置けば、自殺したように見せかけられるだろう」
「けど遺書なんて書いたこと…」
「ぐだぐだ言う暇があったら手を動かしやがれ。もうタイムリミットまで時間がない。ユキに何かあったら本気で殺すぞ」
「…わかったって!やればいいんだろ、やれば!」
跡部の剣幕に押されるようにしてブン太はジャッカルから紙と鉛筆を受け取って偽の遺書を書き始めた。
しかし今まで遺書など書いた事もないブン太は、何を書けばいいのかさっぱりわからなかった。
「なんて書けばいいんだ?」
「俺に聞くなよ」
「ただ書けばいいってもんじゃねぇ。念の為、メッセージを入れておく必要がある」
「メッセージ?」
「てめぇらが生きてる事と、それが全てこの島から脱出する為の計画である事。それを遺書に見せかけた文章の中に入れろ」
「難しい注文すんなよな!わかんねぇっての!」
跡部の指示に困惑するブン太だったが、ジャッカルの助けも借りてどうにか遺書らしきものを仕上げて跡部に渡した。
「フン、まあいいだろう。これは俺様が貼っておく。てめぇらはユキと切原に見つからないように海岸へ移動しろ」
「お前はどうすんだよ」
「俺様にはまだやるべき事がある」
そう言って跡部は決意を固めるように強く手を握り締めた。
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