If…堕ちた帝王side.B

「…お…兄ちゃん……何、してるの…?」


大きく見開かれたユキの瞳が動揺の色を浮かべる。


「どう、して……なんで赤也に銃を向けてる…の…?」


震えた声で尋ねるユキに、跡部は無表情のまま言った。


「ユキ、もう少しで終わるからおとなしくしてろ。お前に傷一つつけさせやしねぇ。全部俺様が終わらせてやる」


首輪の盗聴器がある以上、今ここでユキに事情を話す事はできない。


もし跡部に敵意がないと政府側に知られれば、宍戸達が生きている事がバレてしまうかもしれない。


そうなれば跡部の計画は全て水の泡と化す。


「なに…言ってるの?……お兄ちゃん、やめて……赤也を、撃つの?」


「……」


跡部は何も答えられなかった。


これ以上会話を続ければ怪しまれるかもしれない。


跡部は仕方なく銃口を赤也に向け、引き金に指を掛けた。


無論、赤也の命を奪う気など初めからないが、そう政府に思わせておかなくてはならない。


だがそこで二つの銃口が跡部に向けられ、跡部は銃を構えたまま視線だけを横にずらした。


「銃を捨てろ」


「……」


自分に銃口を向けるブン太とジャッカルを一瞥して、跡部はまたすぐ視線を赤也に戻す。


この状況を打破するにはどうするべきか?


跡部は必死に頭を働かせたが、答えが導き出される前にユキが跡部の腕にしがみついた。


「ユキ!!」


「ダメ!赤也を撃たないで!もうやめて、お兄ちゃん!!」


「っ…ユキ、離せ!」


妹を危険に巻き込む訳にもいかず、跡部は慌ててユキの手を振り払ったが、その隙にジャッカルが赤也の体を引き寄せて自分の背に乗せた。


「ブン太、ユキ、逃げるぞ!!」


「ユキ、早く!!」


ブン太に手を引かれてユキも駆け出す。


「てめぇら、待ちやがれ!!!」


すぐに跡部もその後を追うが、雨が降り出し霧が濃くなって、やがて4人の姿を完全に見失ってしまった。


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