If…堕ちた帝王side.B
午前11時7分。
跡部と別れて海岸付近の岩場に移動した宍戸と鳳は、岩の陰に座り込む立海大附属中の詐欺師・仁王雅治を見つけて、どうするか顔を見合わせながら相談をした。
幸い宍戸の意識は跡部と別れてすぐに戻り、鳳が事情を話した事で宍戸も跡部の計画に協力する事を決めたが、怪我の為あまり動き回る事はできなかった。
鳳はもし他に生存者を発見したら、できる限り近付くなと跡部から指示を受けていた。
宍戸と鳳はまだ放送では告げられていないが、政府側では既に死亡した事になっている。
首輪は外されたので爆弾も盗聴器の心配もないが、生存者に接触すれば、生存者の首輪に内臓された盗聴器によって二人の生存が政府に知られてしまう危険性がある。
無論、死んだはずの人間が生きている事が知られれば、その時点で生存者全員がルール違反と見なされ首輪を爆破されてしまうかもしれない。
しかし救えるはずの人間を見殺しにする事はできない。
「宍戸さん、どうしたら…」
「…放って置く訳にもいかねぇしな。けど、相手は立海の詐欺師だ。何考えてんのかわかんねぇし、俺達に会う前に跡部が一度襲って怪我させたって話だしな」
「そうですね…。結構傷も深いみたいです」
「俺達が死んだ事はあいつもまだ知らねぇだろうが、声を掛けたら坂持の野郎にバレちまうからな。…やっぱりプラカードでも作って見せるか?」
「大丈夫でしょうか…」
「やってみなきゃわからねぇ。だが立海の仁王は頭の切れる奴だってユキが言ってたからな。あいつならこの状況を理解できるかもしれねぇ」
「なるほど…。宍戸さん、やってみましょう。跡部部長は危険な真似はするなって言ってましたけど、やっぱり俺は誰かを見捨てる事なんてできません」
鳳の言葉に宍戸は自然と笑みを浮かべる。
「俺もだ、長太郎。…よし、地図の裏にメモを書け」
「はい!」
二人はなるべくわかりやすいように少ない文章でメモを書き、それを鳳が持ってゆっくりと仁王に近付いた。
岩を背にして休んでいた仁王は、人の気配を感じてすぐにベレッタM92Fを構えたが、鳳が手にしているプラカード…地図の裏に書かれたメッセージを見て眉を寄せた。
"声を出すな。爆弾は解除できる。自殺に見せかけろ"
それはとてもシンプルなメッセージだったが、鳳の首を見て仁王はすぐに理解した。
銃を下ろして黙って頷くと、物陰で様子を窺っていた宍戸も姿を現し、メモで仁王に事情を説明した。
「…気のせいか。俺もヤキが回ったもんぜよ」
政府に宍戸達の存在が知られぬよう、演技をしながら仁王は宍戸の地図にメモを書いた。
"これは跡部の計画か?"
「!」
宍戸と鳳は驚いて顔を見合わせたが、静かに頷いた。
"跡部に撃たれて怨んでねーのか?"
"焦って自分を見失っていたんじゃろ。別に何とも思ってない"
"首輪は解除できるが時間が必要だ"
"了解"
短いメモのやり取りを終えて、仁王はベレッタに弾を補充し演技を始めた。
「俺も…ここまでのようじゃな。……まあ天国も悪い所じゃないらしいしのぅ…」
待機している鳳に合図を送って仁王はベレッタの引き金を引いた。
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