悲しみの不協和音
重い灰色の雲が空を覆い、ザーッと大粒の雨が降る中…
ユキはただ一人フラフラと森の中を歩いていた。
「……」
別にどこかへ向かって歩いている訳ではない。
…いや、歩いているという感覚すらもうないだろう。
親友であり今までずっと一緒にいた赤也を失ったユキには、もう生きようという気力さえ残っていなかった。
薬も飲まず長時間走り続けたことで熱もピークに達し、今はもうほとんど何も感じなかった。
意識が朦朧とし、視界もぼやけている。
それでもなお体が進むのは、心のどこかにまだ希望という細い芯があるから。
「……お兄ちゃん…」
ポツリと呟いてまた足を前に出す。
片割れであり兄である跡部景吾。
そしてもう一人。
心の片隅に引っかかったまま、ずっと忘れることの出来なかった存在。
元恋人、仁王雅治。
その二人に会うことだけが、今のユキの唯一の希望であった。
悲しみと絶望の中光る、小さな…希望。
それだけを目指してユキは歩き続けた。
「…?」
ふとユキはパシャッと水のはねる音を耳にして足を止めた。
ゆっくりと顔を上げる。
そしてそこには銃口と…
それを向ける亜久津仁の姿があった。
→あとがき
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