異変
「ん…」
ふと何か柔らかいものの上に自分が乗っていることに気づき、ユキは少し顔を上げた。
間近に赤也の顔がある。
「!」
驚いて起き上がり、自分が赤也に寄り添うように寝ていたことを知り、ちょっと顔が赤くなった。
まぁ合宿なんかでたまに赤也が真横で寝てたりするので、慣れてはいるのだが。
「起きたか…」
柳の声がして、ユキは赤也から視線を外し振り返った。
するとそこにはすでに目覚めた幸村達の姿があった(ブン太はまだ寝ているようだが)。
「蓮二君…ここは…?」
辺りを見回すと、どこかの部屋の中であることがわかる。
窓もなく、ただ電気とドアがあるだけ。
「わからない。気がついたらここにいた」
柳の言葉に幸村も頷き、
「ドアがロックされてるみたいで開かないんだ」
と言った。
一体いつバスを降りたのか、ここはどこなのか、何が起きたのか…
疑問ばかりが浮かんだ。
とりあえず赤也を起こさなければ…と、ユキは赤也の体を揺すった。
「赤也っ起きて!」
「Zzz…」
この状況でよくここまで熟睡出来るものだ。
見ればブン太も同じようにしてジャッカルに起こされている。
「赤也ったら!」
ペチペチと頬を叩くが、全く起きる気配はない。
一体何の夢を見ているのか、ニンマリとした顔で気持ち良さそうに眠っている。
「もうっ…赤也!起きてってば!」
もっと力を込めて叩かなきゃダメかな…と思ったが、その前に真田が動いた。
ガシッと赤也の胸倉を掴み、キッと眉を上げる。
頭と肩が持ち上がっても眠り続ける赤也に、真田は…
「赤也!!起きんか!!」
と、往復ビンタをくらわした。
「ギャアアア!!!」
あまりの痛みと衝撃に、赤也は一気に覚醒し真っ赤になった両頬を押さえた。
「???」
何が起こったのかわからず、赤也は若干目に涙を浮かべたまま?を浮かべる。
「丸井!!たるんどる!!」
「ぐはぁ!!」
ブン太も真田の往復ビンタをくらい、覚醒。
…あれくらったら誰でも起きるよね。
私だったら逆に眠りそうだけど。
そんなことを考えていると、カチャッと音がして前のドアが開いた。
入って来たのは氷帝で会った伊丹というあの若い男だった。
「こちらです」
まるでロボットのように無感情にユキ達を部屋の外に連れ出す。
「ここはどこなんですか?」
幸村が聞くと、男は背を向けたまま"合宿所ですよ"と答えた。
それ以外には何を言っても受け流され、不信感を抱きつつも黙ってついて行くしかなかった。
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