異変
心身共に疲れた赤也は、はぁ…とため息をつきながらユキの隣に座った。
「ふふ…大変だったね、赤也」
「痛ぇ…手加減なしだし」
「赤也が遅刻するからでしょ?もう少しで置いてかれちゃうとこだったよ」
「仕方ねぇじゃん。起きたら5時30分だったんだから」
「思いっきり寝坊じゃない」
クスと笑うユキの隣、赤也の腹がグウゥ…と鳴った。
「腹減ったァ…朝飯食えなかったし」
「私パン持ってるけど食べる?朝用に買ったんだけど、やっぱり一個しか食べられなくて…」
「食う!」
即答しニカッと笑い手を差し出す赤也に、ユキは「はい」とパンを渡した。
赤也は嬉しそうにパンにかぶりつく。
その姿はさながら犬のようだったが…本人には言わないでおこう。
そんな赤也の隣…つまり通路を挟んだ反対側の席には、試合の駆け引きについて話している詐欺師・仁王と紳士・柳生がいた。
二人の前の席にはブン太とジャッカルが座っており、何やら騒いでいる。
ブン太達の前、最前列には部長の幸村、副部長の真田、参謀の柳が座っている。
「ねぇ今日の相手って青学だっけ?」
そう赤也に聞いてみると、世にも奇妙な宇宙語が返って来た。
「ふは?ほうはへと…」
「ゴメン。食べ終わってからでいい。何言ってるかわかんない…」
「んぐ……そうだけど?」
パンを飲み込み、手についたクリームをなめて赤也が言った。
「赤也はシングルス3だったよね?相手、誰だろう…」
「さぁ…」
「不二君かな?あ、リョーマ君かもしれないよね〜」
「別にどっちでもいいや。どっちも潰すし」
「フフ…うん!赤也は強いもんね!あんなに練習してたんだもん。負けないよ」
「へへ…だろ?」
少し照れたように笑う赤也を見て、ユキはあっと思い出し荷物を探った。
赤也が首を傾げていると、はい!とユキが小さな袋を差し出した。
いかにも手作りといった長方形の巾着だが、中央には丁寧で細かい立海の校章の刺繍が施されている。
紐をといてみると、中に一枚の紙が入っていた。
"全国優勝!"
と、そこには書かれていた。
「これ…」
「結構前から作ってたんだけど、昨日やっと出来たの。丁度今日から合宿だし、皆に渡そうと思って」
「そっか。さっすがマネージャー!」
「私に出来るのなんて、これくらいだから…。少しだけでも皆に気持ち届けたかったの」
「!」
「私も…皆と一緒に全国大会優勝したいから。私はマネージャーだから試合に出られないけど、精一杯応援するからね!」
「ユキ…」
「ちょっとだけでもいい。皆の手助けしたいの」
すると、反対側の席から声がかかった。
「そんなことなかよ」
「!、仁王」
「十分俺達はユキに支えられとるよ」
続いて柳生も言った。
「そうですよ、ユキさん。貴女のサポートは素晴らしい。とても助かります」
「ホントじゃのぅ…くせ物揃いの俺達テニス部を支えられるんは、お前さんくらいじゃ」
「柳生君…仁王」
ユキは嬉しそうに笑い、二人にお守りを渡した。
そんなほほえましい時間が過ぎ、バスは氷帝学園へと到着した。
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