いつになったらあなたはわたしを愛してくれるのだろう

池袋に奇妙な噂はつき物だから今更何があっても不思議とは思えないけれどやっぱり怖いと思う人は怖いし興味をそそられる者はそそられてしまう。
とあるプロダクションにモデルとして雇われてくる女たちが、つぎつぎと行方不明になっているというのです。そのスタジオには吸血鬼が待っているのだ。恐ろしい人外が待っているのだ。女たちはそれに食われてしまったのだ
「ふうん。現代とおとぎ話が混合するような噂だね」
黙って私の話を聞いていた折原さんが感想を述べる。黒地の高価を醸し出すソファに横になる彼の顔は彼の両手によって覆われているので表情は分からない。
「折原さんこの噂知ってました?」
「まあ…似たようなものならね」
噂なんてものは語る人間によっていくらでも尾ひれが付きつぎつぎと形成する内容を変えていってしまうので全く同じ噂というものは確かに聞かない。
「吸血鬼ですよ?吸血鬼!そりゃあ首なしライダーが存在するんですから頭ごなしに否定する気もないですけど」
「肯定する気にもなれない?」
「はい」
フローリングの床に座る私は折原さんの横たわるソファに体を預けていた。彼の長く細い足が私の頭に当たらないかと期待しながら再放送の恋愛ドラマを眺めている。

一時間前までどうしようもなくもどかしい恋愛ドラマの再放送を眺めていた私は今、池袋にあるどこかの小綺麗なマンションの一室にいた。まるで生活感が無いかのように綺麗過ぎる部屋は気味が悪くその持ち主であろう女性も恐ろしく綺麗なのだけれどどこか不気味である。そうして女性は私の耳元でこう囁いた。
「彼女たちもあなたも羨ましいわ。それなのに、まだ満たされないのね」
折原さんの役に立ちたいという私に彼は初めて仕事をくれた。それがどうしようもなく嬉しくて恐怖心などの邪魔な感情は一切無い。…仮にこの一室が吸血鬼の住処だとしてもだ。
「本当にあなたたちは羨ましい」
体が動かない私は頭を動かすしかないのだけれど頭を動かしたところで体や口が動かなければどうすれば良いのだろうか。折原さん折原さん折原さん折原さん
「俺の愛すべき人間が人外に遊ばれるのは面白くない」
分かっています。初めて私に任せてくれたそれに期待に応えなければいけないことを。
「頑張ってね」
そう言ってくれた愛すべき彼の為に私はこの吸血鬼を

「殺さなければならなかった理由?」
数年振りに会った折原臨也という人間は退化こそしていても進化はしていないようだった。しかし人間はこれを成長と呼ぶのだろうか。
「そんなの人間になりたいからに決まってるでしょ」
人間の、若い女の生き血を吸えば人間になれるんじゃないかとかつての同級生は告げた。吸血鬼である私が人間の高校に通っていたことを知るのはその人間と折原臨也の二人だけだ。
「新羅の不確かな冗談でよくもまぁ何人もの人間を殺してくれたよね」
「なに…怒ってるの?」
「人間の皮を被った吸血鬼が俺の愛している人間を喰べることで人間になれるなら俺も嬉しいんだけどね」
「つまり私を愛したいんだ?」
「どうだろうね。喰べられたくはないから黙秘しておくよ」
黒地のソファに横たわる折原臨也は高らかに笑う。それをBGMに私は赤黒い液体を体内へと流し込む。吸血鬼だなんて呼ばれているけれど私はこんなものが美味しいと感じたことは一度も無い。
「数年振りに君の噂を聞かせてくれた楽しい彼女もそこに座っていたよ」
「ああこの血液の彼女ね。本当に美味しくないわ」

欲しがっても手に入らないよその愛とかいうものは

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