考える時間は沢山あった。ありすぎる程に。けれど、いくら考えても無理だった。脳味噌を移植しても心臓を握り締めてもきっと私にはあなたの思考回路なんて分かりはしない。
病院での単調な生活は最初こそ私に精神的な苦痛を与えたものの流石に三年ともなれば慣れてしまったしこの生活を多少は快適に感じるようにもなっていた。偶に外から聞こえる陽気な声に胸が痛む時もあるけれど仕方無いこと、諦めること。この三年間で私は今まで足りなかった我慢を覚えた。

明日、来良の入学式なんです。

昔よく一緒に遊んでいた親戚の男の子が電話をくれた。今年から此方で一人暮らしをするらしいその子に「出来るだけお見舞いに行きますね」なんて言われてしまいすっかり立場が逆転してしまったことが少し悲しかった。本当だったら私がお世話するべきなんだろうな。しっかりしている子だからあまり心配はいらないと思うけれどだからこそ心配な所もあるんだよね。でも高校にはもう友人も居るみたいだし大丈夫かな。これからの彼の高校三年間が良いものになるように祈りながら私は眠りについた。

私の高校三年間は主にとある人物たちのお陰で平和とは言えなかったが毎日が新しく退屈する暇のないものだった。今日は何があるんだろう。胸を弾ませて通学していた。自ら厄介ごとに突っ込んでいた私の三年間は本当に充実したものだったと今でも思う。あの頃の私はきっと一番生きていた。
病室のドアが開かれて夢は終わり同時に空気が変わった気がした。なかなか言葉を発することも名乗ることもしないその人物を不思議に思い声を掛けるとその人物はどこか楽しそうに話し出した。
「久しぶりだね」
「……誰?」
「高校卒業以来だから…何年振りだろう?久しいことに変わりはないから数えなくてもいいかな」
「高校…」
「嫌だなあ。忘れちゃったの?高校の時は割と仲良くしてたつもりだったんだけど。俺に恋人が出来たときとか一番に教えてあげたじゃない。あとは…そうそう!校内新聞の取材に答えてあげだりさ。ねえあれって誰か読んでたの?」
「!?いざ、や…」
「ご名答!覚えててくれて嬉しいよ。俺が君を思い出したのはごく最近なんだけどね」
「…そう」
「少し雰囲気変わった?とは言ってもあの頃の君のこと余り覚えてないんだけどさ。そうだよねえ。人は日々成長するんだから変わるもんだよ。それに比べてシズちゃんなんか全然なんだよ。知ってる?相変わらずなんだよね。馬鹿みたいに体だけでかくなっちゃって」
「忘れてた人間に何か用?」
「怒った?ごめんごめん。うん、ちょっとねー」
僻みも大概にしたらどうなの。平和島くんはあなたよりも何倍も素敵な人間よ。いいえ、あなたに比べたら地球上には素敵な人間が溢れている。そんな意味のない言葉は脳内から即刻削除された。
「帝人くんとはこれから色々とあるだろうからさ。君にも挨拶と忠告をしに来たんだよ。彼は君と違って面白い人間だ。だからあんまり要らないことを吹き込まないで…って言うつもりだったんだけどどうやら心配要らないみたいだね」
「!ちょっと待って!帝人くんで何するつもりなの?!」
「言ったとしても今の君には何も出来ないだろ?絶望をあげるほど君のこと嫌いじゃないよ。君の推理力とか洞察力とかさ、ちょっと厄介かなって思ったんだけど本当に良かったよ。
目も手も使えないみたいで」

高校を卒業して一年後私は事故に遭って目と手が使い物にならなくなった。不運な事故だった、と警察は言いそのまま処理されてしまったがそれは違う。その前にも何回も私は事故に遭いかけていた。計画されていたんだと思う。明確な証拠がなく「被害妄想」と言われそうだったので警察には言えなかったけれど。犯人に確信はないけれど、証拠もないけれど一人の人物が私の頭に浮かんでいた。
「ああ。君の事を覚えてはいなかったけど忘れてはいなかったから。何回も何回も計画を踏み潰してくれて苛々したし楽しかったよ。じゃあね」


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