これって所謂(鶉の卵様)

「雪男・・、す、すき・・だ・・。」
その言葉を脳内でリピートした瞬間、奥村雪男(15)の脳味噌は爆発した。





これって所謂






腹部に異様な圧迫感を覚え目を覚ました雪男は、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる『何か』に視線を合わせた。それは薄闇のせいでもやがかかり、なかなかはっきりしない。そもそも、視力が極めて低い雪男に見えるはずもないのだ。雪男は手探りで枕元を探った。指先に触れた硬い感触を手繰り寄せ、慣れた手つきで装着する。寝ぼけ眼の双眸が映し出したのは、見慣れたはずの兄の顔だった。しかし、どうも様子がおかしい。なにやら思いつめたような表情をして、目を泳がせている。そもそも、雪男の上に馬乗りになっている時点で異常なのだ。雪男は優秀な脳をフル回転させ、ここまでに至った経緯を探る。
しかし冷静な表情とは裏腹に、雪男の心情は冬の日本海並みに荒れていた。荒れに荒れまくっていた。それこそ船が転覆するくらいに。常日頃から人様には言えない劣情を燐に抱いている雪男である。その相手が、腰に跨って悩ましげに表情を曇らせているのだから、たまったもんじゃない。むしろこれはフラグか?待ちに待ったフラグか?回収しろということか?
どんどんこことは違う場所へ意識を持っていく雪男を他所に、燐は意を決したように真っ直ぐに雪男を見る。そして不意に。



「雪男・・、俺、お前のこと・・、す、すき・・だ・・。」
まるで消え入るように囁かれたその言葉に、雪男の脳味噌は考える事を放棄した。放棄せざる得なかった。今、今なんて言った?すき?数寄だ?漉きだ・・?え・・、すき・・?
「に、ににに兄さん。どうしたの?熱でもあるの?頭をぶつけすぎて本当に馬鹿になっちゃった?よし、いいよ、わかった。明日一緒に病院に行こう。」
ついでに僕も見てもらおう。きっと任務と勉強と兄さんへの叶わぬ恋で心身ともに疲れ果てて幻聴と幻覚をみているんだ、きっとそうに違いない。内心で一気に捲くし立てた雪男は、死にものぐるいで自分に言い聞かせた。しかし、燐は雪男の葛藤を軽々と粉砕した。
「お前は・・、俺のこと、嫌いなのかよ。」
今にも泣き出しそうな燐を前に、雪男の理性はものの見事に決壊した。まさに台風とハリケーンと津波とその他諸々が一気に押し寄せた感じだ。ロケットのジェットエンジン並に加速のついた雪男は、燐の身体をベッドに押し倒し体勢を入れ替えた。兄に恋愛感情という一番厄介なものを抱いて早数年。雪男は爆発寸前の感情を押しとどめながら、低く囁いた。
「僕も、愛してる。」







ピピピピピピピピピ--------
耳元で聞こえているのがアラーム。そう、アラームだ。自分は今まさに、アラームの音で目を覚ました。時刻は午前七時。ベッドの上は綺麗に整えられ、乱れた痕跡は皆無。雪男は嫌に重い身体を起こし、室内を見回した。隣のベッドは既に空っぽで、今さっきまで激しく弄り合っていた相手の姿はなかった。これって・・・、所謂。鼻腔をくすぐる卵焼きの甘い匂いが、雪男を現実へと強制的に帰還させる。雪男は無言のまま両手で顔を覆った。そうだ、いっそのこと山篭りしよう。教師とか祓魔師とかもうどうでもいい。雪男が自己嫌悪の渦へと飲まれていく最中、半開きだった部屋の扉が開いた。そこから飛び出してきた燐は、眩しいほどに満面の笑みで。
「お、雪男!起きたのか、見ろよ、今日の卵焼きめちゃめちゃ上手く出来たんだぞ。さっさと着替えて飯にしようぜ!」
屈託なく笑うその笑顔が、雪男にとって致命傷となった。がたがたと身体を震わし、ぶつぶつと何か呟きだす。雪男の変貌に、燐はびくりと身体を震わせた。立ち込める異様な雰囲気に、事の重大性を徐々に痛感し始める。燐は卵焼きもそっちのけで雪男に駆け寄った。
「ゆ、ゆゆゆ雪男!?雪ちゃん!?ちょ、お前なんでそんな真っ青に!?つーか何自分で首しめてんだよ!ちょ、まじ・・・うわぁああ誰かぁあああああー!!!!!」



その日から数日、雪男は原因不明の高熱で昏睡した。


おわり


ツイッターでわがままを言いまして、「葛」の鶉の卵様に書いていただいた素敵雪燐です。
鶉様本当にありがとうございます!


11.06.05




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