こんなに青い空なのに

雪ちゃんと何かあったの?、としえみに聞かれ、兄弟喧嘩も大概にしなさいよ、と出雲にはたしなめられ、挙げ句勝呂には奥村先生を困らせんなや、と睨まれる。
この一週間、燐自身も雪男の様子がおかしいことに気付いている。何となくではあるが、燐を避けているようだ。以前、突然のキスと告白のときも似たようなことがあったが、今回はそれとは違う気がしていた。

「なんだっつんだよ……」

避けられたら、淋しい。燐は遠くで女子生徒に囲まれる雪男を見つめ、ため息を吐いた。
雪男には今、燐の記憶だけがない。しかし、それでも一週間前までは態度は変わらなかった。
一週間前、例の雑木林で倒れてからだ。雪男が燐を避けるようになったのは。

「なんや奥村君、ため息吐くと幸せが逃げるで?」
「うっせ!」
「若先生と何かありはった?」

志摩が尋ねてくる。しえみと似た言葉だが、ニュアンスが違う。何かあっただろうことを確信して聞いている。
そんなに自分たちは分かりやすいのだろうか。燐は困り顔で志摩を見た。

「知らね。避けられてるみたいだけど」
「坊がえろう心配してはりましたよって」
「勝呂にも言われた。俺もよく分かんねぇってのに……」

雪男は燐にも誰にも、すべてを明かさないところがある。今回も何か悩んでいるとしたら、聞いてやりたい。
なのに、雪男は何も言わない。昔からずっとそうだった。

「前にもこんなことあったような……」
「あいつ、何かあるとすぐ避けるんだよな。言ってくんなきゃ分かんねぇのに」
「ちゃんと話した方がええで?そのうち若先生、奥村君のことで胃を痛めはるで」

そんなこと、燐が一番よく分かっている。だけど、どうにもできない自分が悔しい。

「どうして雪男は……」

紡ぎ掛けた言葉を止め、燐は空を仰ぐ。真っ青な空には、雲一つない。こんなに晴れているのに、気持ちはどんよりとしたまま、ちっとも晴れそうにもない。
けれども、考えるのはやめてはいけない。このまま雪男と距離を取り続けたら、雪男が壊れてしまうような、そんな気がしていた。ただの杞憂ですめばいいのだが。

「まあとにかくあれやん。ちゃんと話したらええよ。兄弟ってそういうもんやろ」
「ああ……さんきゅ」
「ほな、また塾で」
「おう」

手を振って立ち去る志摩の背中を見つめながら、燐は小さく息を吐く。
雪男が大切だ。誰よりも、何よりも。それは雪男の記憶の中に燐がいなくても、分からない。傍にいたいと思うし、いつだって近くにいたい。

「本当に、どうすっかな……」

ただ、分からない。雪男のことをすべて理解している、だなんて傲慢なつもりはない。そもそも、中学の頃から雪男のことで知らないことはどんどん増えていった。
近くて遠いな、と燐は言葉をもらした。
誰よりも近くにいるはずなのに、どこか遠く感じてしまう。それが淋しくて、苦しかった。
昔はもっと違ったのに。そう思ってから、燐はそう思った自分にため息を吐いた。今の雪男は、昔を知らないのだから。


つづく


ちょっと短めでしたが、悶々とする燐の感情を少々。
兄弟喧嘩とはちょっと違いますけど、違い分素直に謝るのって難しいですよね…。


11.06.10


[←prev] [next→]

[back]

[top]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -