訪れ――2

音は鳴りやまない。常に頭の奥で響いていて、燐は頭痛を感じるようになっていた。
けれども、煩わしいとは思わない。不思議と、どこか切なさを感じる。
なんだろう、と考えても燐には分からない。雪男に聞いても、大丈夫だよ、としか言わない。

――呼んでるんだ。

頭の中でまた誰かが囁く。呼んでる、とはなんだろうか。分からない。
確かに、呼ばれているような気がすることもある。しかし、それは直感だけで、実際に呼ばれているかどうかは分からなかった。

「なあ、雪男。本当に聞こえねぇの?」
「ごめん、兄さん。僕には何も聞こえないよ。それより、今日の夕飯は何にする?久々にすき焼きにしようか」

雪男はどこか、この話題を避けている。燐が話を振ると、知らない、分からない、とすまなそうに困り顔で笑う。
昔みたいだった。雪男は眉間にしわなんてよってなくて、いつも笑っていて。それから、ひどく優しい。
弟に甘えてしまいそうな自分を振り切り、燐はそうだな、と頷いた。

「最近食べてなかったしな」
「じゃあ一緒に買い物行こうか」
「おう!」

雪男が優しく笑うから、燐もつられて笑う。当たり前のようなそれが、ひどく幸せに思えた。

――それが望んだこと?

頭の奥から尋ねる声がまた聞こえた。望むも何もない、と燐は思う。これが普通なのだ。当たり前にある。
雪男はいつでも燐の傍にいるし、この暖かな空間は燐が守りたいと思っているものだ。
ピィン、と音が響いて、燐は辺りを見回す。音が鳴りそうなものはどこにもなかった。


***


二人で囲む鍋。前と比べると少し淋しいけれど、それでも燐の作る料理は美味しい。
美味しいね、と笑う雪男がいて、燐は満たされた気分になる。頭に響く音はやまないけれど、このところ穏やかな日々が続いているからかもしれない。

「肉も食えよ」
「兄さんは野菜もね」

はいはい、と言いながら食事が進む。穏やかな時間は暖かくて、燐は頭の奥で鳴り続ける音も気にならなかった。

――本当にそうなのか?

誰かが問う。燐の箸が止まった。
どうして、音が聞こえるのか。燐は不思議に思っても大して気に留めていない。だけど、それは本当なのだろうか。

――考えろ。

雪男が大丈夫だと言うから、大丈夫だと思っているだけなのかもしれない。本当は、とても大切な意味があるのかもしれない。

「どうしたの、兄さん」
「……いや、何でもねぇよ」

ピィン、とまた頭の中で音がした。今度は、いつもより強く。


つづく


11.05.24〜06.08拍手ログ


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