君に誓う

月が夜空に浮かぶ。欠けていて、もうすぐ新月だろうことが伺えた。
月が欠けると、空は暗くなる。明かりを失い、闇夜が訪れるのだ。
暗い部屋の中、雪男は腕の中で眠る燐を見つめる。穏やかで、柔らかな表情で。

「兄さん、僕が兄さんを守るよ」

雪男はまるで誓うように呟く。優しく、喜びさえにじませて。
尖った耳。少し開いた口から覗く牙。寝息に合わせてゆらゆらと動く尻尾。触れると柔らかくて暖かい頬。温もりをくれる唇。
悪魔として覚醒した後も、その前も、燐は雪男が恋い焦がれてやまない、奥村燐のままだ。魔神の落胤であるとか、そんなものは今は何もない。

「兄さん」

雪男は燐を呼ぶ。ん、と声を漏らすものなの、眠りから覚めそうにもない燐の頬を、雪男はそっと指で撫でた。

「兄さん。燐」

名前で呼ぶのは二回目だ。
呼ばれたことに反応したのか、燐の目がぴくりと揺れる。目が開き、ぼんやりと雪男を見つけた。

「……雪男」
「うん」

安心しきったような、普段聞くことのできない甘えた声が雪男を呼ぶ。雪男はそれが嬉しくて、表情を緩めて返事した。

「どうかしたか?」

目をこすりながら燐は、すり寄るように雪男の肩に頬を近付ける。尻尾は雪男の背に回っていて、完全に体を預けた状態だ。
無防備だな、と雪男は内心苦笑する。これまでとは違う関係になったのに、少しは警戒したっていいだろうに。
雪男を見つめる燐の目は、前とは違う。兄の目だけでなく、恋人の目をしている。

「兄さんの寝顔見てた」
「は?はぁ!?な、なんっ……おまっ!」
「顔赤いよ。可愛いね」
「可愛いとか言うな!くそっ!」

燐の尻尾がバシバシと雪男を叩く。照れ隠しなのだろうと、雪男は小さく笑った。
恥ずかしさからなのか、肩に顔をうずめる姿は愛しくて堪らなくて、雪男は燐の頭にキスを一つ贈る。うぅ、といううめき声のような声が聞こえて、思わずぎゅっと抱き締めた。
幼い頃、雪男は決めた。兄を守る、と。それは今も変わらない。押しつけでなく、守りたいと思えた。

「も、もう寝るぞ!寝る!」
「うん、そうだね。明日はちゃんと起きるんだよ?」
「おう……おやすみ」

腕の中の燐は暖かくて、この先に何があっても雪男はこの温もりを守ると決めた。
大切な兄として、愛しい人として。誰よりもかけがえのない人だから。

「お休み、兄さん」


おわり


雪男の長かった初恋が成就するまででした!
おつきあいいただき、ありがとうございます。


11.05.25


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