そして兄弟以上

燐がまっすぐ雪男を見つめる。その目に嘘はない。つまり、そういうことなのだろう。

「それ、本当なんだよね?」

雪男が確かめるように尋ねれば、燐は頷く。少し頬が赤く染まっていて、尻尾は落ち着きなく揺らめいていた。
頭の中で、もう一人が雪男に問う。いいのか、と。それに対する答えを、雪男は持っていない。

「……キ、キスされて、言われて、これでも考えて。悩んでんのにお前は俺のこと避けるし、挙げ句、勝手に完結させてるし」
「兄さんの傍にいたいんだ」
「どうせ余計なこと考えてんだろ。お前の考えくらい兄ちゃん分かるぞ」

燐が答えをくれる。長い苦しかった雪男の恋に、燐が答えを出す。それが世間的に正しくないものだとしても、雪男には何よりの救いとなる。
悪魔なのに、と雪男は内心笑った。

「好きだよ、兄さんが。誰にも見せたくないし、触れさせたくないくらい」
「お、おう……」
「僕は兄さんが好きで、でも兄さんは僕の兄さんで。キスしたり、抱き締めたり、それ以上のことだってしたいけど、今の関係も壊したくなかった」

結局、雪男はただ怖かっただけだ。

「抑えてきたはずなのに、兄さんの周りに色んな人がいて、焦ったんだと思う。気付いたらもう、抑えきれなくなったんだ」
「お前さ、腹に溜め込むのやめろ。何のために俺がいんだよ」
「……うん」

燐の優しさが嬉しくて、暖かい。雪男は立ち上がると、燐を抱き締めた。
距離、ゼロ。この前違って燐の手が雪男の背中を撫でる。

「兄さんをもらってもいい?」
「ならお前も寄越せよ」
「いいよ。それにもう、僕はとっくに兄さんのだ」

目を合わせて、笑って、それから唇を重ねる。独り善がりでないキスは、暖かくて心の奥が満たされた。


***


しばらく抱き合っていて、お互いにゆるりと腕の力を抜く。なんとなく気恥ずかしくなって、雪男も燐もプッと吹き出した。

「遠回りしてた気分だよ」
「そりゃこっちの台詞だっつの」

照れくさそうに頬を染めながらも、燐は拗ねたように唇を尖らせる。それが可愛くて、雪男はちゅ、と軽いキスをした。
燐は真っ赤な顔をし、尻尾がぺしぺしと雪男の足を叩く。もうきっと、遠慮なんてできそうにもない。

「ああ、でも講師としては手を抜かないからね」
「当たり前だろ!んなことで贔屓されたくねぇよ」
「うん、じゃあこの課題、明日までに終わるんだよね?」

このまま暴走してしまいそうな感情を抑え、雪男は一昨日の授業で出した課題を見せる。ちなみに提出は明日だ。

「や、やろうとしたんだぞ!」
「このところ、授業にも集中していなかったし、分かるの?」
「誰のせいだ!この眼鏡!」

燐が上の空だったことくらい、雪男は気付いていた。そのときは自分のせいだ、と苦々しく思ったが、今は喜びさえ感じてしまう。
単純だな、と雪男は自身を笑う。

「僕のせいだね。お詫びにお風呂から上がったら臨時授業してあげるよ」
「や、俺……SQ読まなきゃいけねぇから!」
「そのSQは僕のだよ。ちなみにまだ僕は読んでないんだけど」
「ケチケチすんなよ!今日は先に風呂入っていいから!」

明日提出だというのに、そもそもやる気がないらしい。雪男はため息を吐いた。
燐にも分かるように、雪男は授業内容を考えている。贔屓しない、と言っておきながら、やっぱり燐は特別扱いしてしまうのだ。もちろん燐は、そんなことに気付きやしないし、この先も気付かないだろう。

「……兄さん」
「やる!やるから先風呂入ってこい。な?」
「はぁ……。少しは手をつけといてよ?」
「おう!」

返事と共にピン、と燐の尻尾が立つのを見て、雪男は表情を緩めた。

「可愛いね、兄さん」


つづく


兄さんが可愛くて仕方ない雪男が大好きです!


11.05.23


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