Lies or Truth

小さな頃、何かあればすぐに泣いていまい、兄の影にばかり隠れていた。
そんな自分が嫌で、それなのに強い兄を妬んだ。悪いのは弱い自分なのに、まるで兄が悪いかのように。
兄が特別な存在だと言うのは、幼い雪男にも理解できた。
養父から聞いただけでなく、兄が持つ力を雪男も見ているのだから。
兄は、人では考えられないくらい、回復力が高かった。
加えて少々強すぎる腕力があり、兄自身がそのことに悩まされているところを雪男は見てきた。
けれども、なぜ、という気持ちは変わらなかった。どうして兄ばかりが特別扱いされるのか、と。
それは雪男が祓魔師を目指すようになってから、特に顕著になっていった。
雪男が苦しい思いをして、真面目に訓練に取り組んでいるのに、兄は養父に愛されて好きなように生きている。
祓魔師となると選んだのは雪男自身であるし、兄が苦悩している姿も知らないわけではない。
けれども、ふとした瞬間にそう思ってしまうのだ。そんな自分が、雪男は嫌いだった。
兄を妬ましく思い、嫌いだと思ってしまう自分が、誰よりも雪男は嫌いだったのだ。

「雪男!お前やっぱすごいよな!」

何も知らない顔で、兄が雪男を褒める。すごいだなんて褒められたって、雪男は嬉しくなかった。
だって兄は知らないのだ。雪男がどれほど努力してきたかなんて。
理不尽な思いばかりが膨らんで、このままでは暴発してしまう。兄にぶつけてしまうことが、雪男は怖かった。
だから高校に上がるとき、兄とは進路が分かれることに雪男はほっとしていた。
それなのに、養父を喪ってしまった。雪男はこれまで進んできた道が見えなくなった。
道を示してくれていた養父はいない。何も言葉を交わせないまま、逝ってしまった。
すべて、兄を守るためだった。養父が死んだのも、雪男が祓魔師になったのも。
何も知らない兄を見て、雪男は苛立ちを隠せなかった。
だから、ぶつけたのだ。全てを。ひどいことを言ってしまったと自覚しているのに、それなのに兄は、全てを許した。
だから敵わないと思ってしまうのかもしれない。兄はずるいのだ。いつだって。

「大嫌いだ……」

何度も小さく呟いてきた言葉だ。それでも勇気が足りなくて、燐自身には伝えられなかった言葉だ。





「おーい。雪男?雪ちゃーん!」

はっとして雪男が目を覚ますと、燐が顔を覗き込んでいた。
驚いて体を起こすと、ごん、と互いの額がぶつかる。

「うっ……」
「いって……んだよ、急に起きんなよ!」
「ご、ごめん」

雪男は痛む額を押さえつつ、同じように額をさすっている燐を見遣った。
燐は変わらない。昔から。何一つ。
覚醒した今も。自身について知った今も。
だから雪男には燐が眩しく見えるのかもしれない。

「雪男?どうした?」

こてんと首を傾げる姿は幼くて、雪男は自然と笑みを浮かべた。

「兄さんは、兄さんだよね」
「はぁ?何言ってんだ?頭のうちどころ悪かったのか!?」
「違うよもう、馬鹿だな」

妬ましいと思っても、いっそ憎いとさえ思っても、結局のところ、雪男には燐を本心から嫌いにはなれないのだ。
ずっと一緒にいた。これからも一緒にいる。
大切な兄だ。誰よりも。何よりも

「今何時?」
「7時過ぎ。飯できてるから顔洗ってからこいよ」
「うん、ありがとう」

いつだってぐるぐる悩んで、結局同じところへ辿り着くのだ。
燐を愛してる。誰よりも、何よりも。
それが親愛なのか性的な意味合いを含むのか、雪男にもまだ分からない。
ただ、叶うことならば。燐の隣には自分がいたいと願う。
隣同士で、それから背中合わせで。そうして一緒に戦いたいと願う。運命やしがらみと。

「なあ雪男」
「ん?何?」
「お前、何が大嫌いなんだ?寝言で言ってたぜ。眉間に思いっきりしわ寄せてるし、よっぽど嫌いなんだな」
「ああ、それ、嘘だから」
「はぁ?」
「嘘だよ。大嫌いなんて」

雪男は笑う。燐が困惑したような顔をしていることに気付いたけれど、それ以上は教えられなかった。


おわり


無自覚雪男→気付かない燐。的な奥村兄弟も大好きです!


11.10.30


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