僕の兄が可愛すぎて困る(豆腐様へ)

「モテる奴はいいよな」

昼休み、一緒にご飯を食べよう、と誘った雪男に対して、燐の返事はこうだった。思わず、雪男は首を傾げる。
怒っているような顔をしているけれど、拗ねているだけだろうことは明確で。でも雪男には意味が分からなかった。

「兄さん?」

確かに、入学式で代表挨拶をしてからというもの、女子生徒から声をかけられることはある。けれども、雪男の眼に映るのはそんな可愛らしい女子ではなく、兄である燐ただ一人だ。
それに雪男は、ちゃんと鈍感な燐にも分かるように態度で示しているつもりだった。昼食は女子の誘いを断り、燐と食事をしている。お弁当だって、燐以外のものは受け取らない。
こうして示しているというのに、まだ足りないのだろうか。雪男は少し、思考を巡らせる。

「入学式で目立ったから、それで騒がれてるだけだと思うよ?」
「……そういうんじゃねぇだろ」
「そうは言われても……」

雪男自身、多少女子生徒から騒がれている、という自覚はある。気付かないほど、鈍感ではない。
しかし、それらは全て、入学式で挨拶をした“奥村雪男君”に対するもので、本質をほとんど知らない人からの好意には、失礼ながら困っている。
たった一人でいいのだ。好意を寄せ、傍にいてくれるのは。

「どうして兄さんは気付かないかなぁ……」
「んだよ?バカにしてんのか!」
「バカになんてしてないよ。鈍いな、って思っただけ」
「はぁ?」

雪男は燐が好きだ。愛していると言っても過言はない。それは幼い頃よりずっと変わらない。

「兄さんのそういうところ、可愛いけどね」

燐は嫉妬しているのだろうか。そう思うと、雪男は表情を緩める。
いつだって雪男は、自分ばかりが燐を追い掛けているものだと感じていた。どこか人を引き寄せる魅力があることに、燐自身が気付いていないことも原因の一つだ。
どこか他人に対して一定の距離を置いてしまう雪男とは違い、燐はパーソナルエリアと呼ばれるものを簡単に突破してしまう。だから親しくなれば、誰もが燐に好意を抱く。
そのことにどれほど雪男が胸を焦がしているものか、きっと燐は想像もしないのだろう。

「今日はどうしたの?」
「別に。どうもしねぇし」
「意地っ張りも可愛いけど、そろそろ意味が分からないよ」

どうして妬いてるの?と尋ねると、燐の頬がぼっと赤く染まった。可愛いな、と思ってしまうのは、身内の贔屓目でも、惚れた弱みでもない。
きっと燐を知る者ならば、大抵は可愛いと思うだろう。雪男はそう思っている。

「お前の噂、聞いた」
「噂?」

どんなものだろう、と雪男が続きを促すように燐を見つめると、燐は眉を寄せた。

「かっこいいだとか、頭いいだとか。優しくて紳士的で知的で大人っぽいとか」
「はぁ……」

噂というのだろうか、それは。雪男は拍子抜けして肩を落とす。褒められているようにしか感じない。
燐はと言えば、それが不満なようで、ムスッとして雪男から顔を背けた。

「彼氏にしたいらしいぜ、お前」
「ああ、そういうこと」
「お前、別に大人っぽくねぇし、そりゃ頭はいいけど、頑固だし。融通きかねぇし、ホクロだし、眼鏡だし」

つまり、やはりただ拗ねているだけだった。その姿が堪らなく愛しいと思ってしまうのは、好意を寄せる相手だからだろう。
我慢なんて利きそうになく、雪男は燐の頬に手を伸ばす。

「でも本当の僕を知ってるのは、きっと兄さんだよ」

知ってる?と甘く笑って尋ねると、燐は目元まで顔を赤くしてふいっと顔を背けた。そんな顔をされても、可愛いだけだ。

「兄さんさえ僕を好きでいてくれたら、世界を敵に回したって怖くないよ」
「何言ってんだ、お前。は、恥ずかしいやつ!」

指の背で赤く染まった燐の頬を撫でると、雪男はくすりと笑った。


おわり


相互していただいたお礼に豆腐様よりリクエスト(ごり押しして)していただきました、ラブラブ雪燐です!
ラブラブっていうよりは、ただひたすら雪男が燐に甘い話になってしまいました…。
豆腐様のみお持ち帰り自由です!
たまにはやたらめったら兄さんを甘やかす雪男もいいと、私は勝手に思います(笑)


11.06.16


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