これが僕の愛の形

夕飯何食いたい、と燐が雪男に尋ねたのは今から30分前。そうだな、と雪男が答えようとしたのも、今から30分前。
雪男は今、燐を床に押し倒していた。

「ゆ、きお……?」

頬を紅潮させ、戸惑いの視線を向けてくる燐は、鉄鋼よりも固い雪男の理性を意図も容易く削ってくる。可愛くて、愛しくて。喉から手が出るくらい、欲しい。
とはいえ、雪男は本当に燐のことが好きなのだ。無理矢理事に及んでしまおうだなんて、そんな乱暴なことはできない。

「……兄さん」

苦しそうな声になってしまうのは、せめぎ合う二つの感情が雪男の中にあるからだ。
無理矢理にでも燐を暴いてしまいたい衝動と、痛みや苦しみ、何もかもから守りたいと願う心。どちらも雪男の中にあって、雪男の頭はパンクしてしまいそうだった。
愛してるからひどくしたい。愛してるから優しくしたい。ひどい矛盾だと雪男は自身を嘲笑う。

「どうしたんだ?大丈夫か?」
「兄さん、僕は……」
「うん?」

雪男の頬を燐が撫でる。

「……ごめん」
「は?ん、んぅ……」

抑えることなんて、できなかった。雪男は燐の唇に唇を押しあて、驚きで開きかかった口に舌を忍び込ませた。
燐の咥内は熱くて、舌先で触れた舌は柔らかかった。舌が触れ合うたびに燐の肩が跳ねる。そっと目を開ければ、ぎゅっと目を閉じ、必死に受け入れている燐がいた。
雪男の体が熱くなる。局部に熱が溜まっていくのを感じて、雪男は慌てて燐の唇を解放した。

「はっ、はふっ……」

肩で呼吸する燐を見て、雪男はサァ、と血の気が引いた。やってしまった。ついに。これでは誤魔化しなんてきかない。

「きゅ、急に、なんっ……は、初めてだったんだぞ!」
「ご、ごめん兄さん!ごめん!本当に!」

涙目で見つめてくる燐に、雪男は慌てて燐の上から退いた。体を起こす燐に向かって土下座までする。嫌われるのだけは、嫌だった。
気持ち悪がられて、傍にいられなくなるなんて、最悪のパターンだ。雪男は何としてでも許してもらいたい気持ちでいっぱいだ。

「あんなつもりじゃ!いや、本当に!ごめん兄さん!そうだ、いっそ死んで詫びを!!」
「は?」

ガチャ、と手に馴染む銃を一丁取り出すと、雪男は銃口をこめかみに当てた。その瞬間、慌てたのは燐の方だ。
たしかに、燐は驚いた。今日は何食いたい?と聞いただけで押し倒され、あまつさえ、キス――それも想像もしなかった熱っぽい深いのをされて。
けれども、それだけで雪男に死なれるのは嫌だ。困ったことに、雪男のキスが気持ちよくて、嫌悪感なんて微塵もなかった。死んで詫びてもらうほどではない。

「ま、待て待て!雪男!マジやめろ!つか死ぬな!」
「止めるな!僕はもうちょっとで兄さんの貞操を奪うところだったんだぞ!」
「はぁ!?そこまでしそうだったのか?つか、マジ落ち着け!死ぬとか言うな!!死んでもらいたいほど嫌じゃねぇ!お前が死ぬ方がよっぽど嫌だ、このホクロ眼鏡!!」

ようやく雪男が落ち着きを取り戻し、燐はその手から銃を取り上げた。

「お前さ、マジ……」
「本当に、ごめん」
「なんだっつーんだよ」

思い詰めた表情の雪男に、燐は困った顔でため息を吐く。そんなに落ち込まれても、燐が困る。そもそも、意味が分からない。

「兄さんが好きなんだ」
「はい?」
「それが理由。無理矢理キスしたのは謝るけど、僕は――」
「な、なんかよくわかんねぇけど、もう謝んな!意味分かんなくなる」

つまり、なんだ、と燐が思考を回していると雪男は燐の手を引いて立たせた。

「うん、ありがとう、兄さん」


おわり


残念な雪男も大好きです(笑)
「葛」の鶉さんにあげました!


11.06.06


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