相互性依存

兄さんが悪い、と寮に帰って早々に、雪男が燐を抱き締めた。何のことか分からず、燐はおとなしく雪男の腕の中にいる。
怒らせるようなことをしただろうか、と考えるけれど、この弟は、怒っているときは指一本触れてこないし、触れさせない。なら、何があったのか。燐はそろそろと、雪男の背中に手を回す。

「何かあったのか?」

考えても分からない。降参だ。
燐が率直に尋ねると、雪男は甘えるように燐の頭に頬をすり寄せた。めずらしいこともある。心配な気持ちもあるが、燐は嬉しくなった。
いつからか、雪男は燐に甘えることなんてしなくなった。今になってみれば、その頃からもう、雪男は祓魔師としての道を歩み出していたのだろう。

「……兄さんが悪いんだ」
「何かしたかよ?」

雪男の腕に力が入る。苦しいほどに抱き締められ、燐はその奥にある雪男の不安を感じた。
燐自身も雪男が相手となると大概素直じゃないが、雪男も同じように素直でない部分がある。兄弟だから、双子だから。つい意地を張ってしまうこともあった。

「俺はどこにも行かないぞ」
「え?」
「だからお前も、置いてくな」

雪男の感じている不安が、燐の感じている不安と同じかは分からない。けれども、なんとなくそうなんじゃないか、と燐は思った。だから、普段は絶対に言わないことを言う。
結局、燐は雪男に依存している。きっと、雪男も。

「……早く追い付いてよ、兄さん」

体を離し、目を合わせる。雪男はにこりと笑った。

「今のままだと差が開くよ。僕は待ったりしない。だから、早くしないと置いてくよ?」
「追い抜いてぶっちぎりに差をつけてやるよ!見てろよ!」
「兄さんにできるの?」
「バカすんな!抜かれて悔しがる準備しとけ!いいな!」

先程まで、どこか淋しげで苛立たしげな雪男はもう姿を潜める。燐は内心ほっとして、不適な笑みを浮かべた。
追い付くまで続く。追い抜いてまた始まる。二人のおいかけっこに、終わりはない。


おわり


依存度が高い奥村兄弟が大好きです!


11.05.30


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