こんな休日の過ごし方

めずらしく任務もなく、雑務を片付け終えた雪男は、自分の寝台で本を読んでいた。たまの休日、のんびり過ごすのも悪くない。
それは燐も同じで、尻尾をゆらゆらと揺らし、クロを遊ばせながら、寝そべってSQを読んでいる。そんな燐を横目で見つめ、雪男はため息を吐いた。
課題は、宿題は、と言いたいことは山ほどある。けれども、喉の奥でつっかえて、それらの言葉を飲み込んだ。

『どうしたんだ?ゆきお、げんきないのか?』

にゃー、とクロが雪男に話し掛ける。雪男にはクロの言葉は分からないが、本を閉じると寝台に乗り上げてきたクロを抱き上げる。

「うん?」
『つかれてるのか?』

にゃーにゃーと鳴くクロに、雪男は困ったように笑う。顎の辺りを撫でてやれば、クロは目を細めた。
言葉は分からないが、表情からして気持ちよかったのだろう。雪男はくすりと笑うと、クロを傍らに下ろし、背中や首の後ろも撫でてやった。

『ゆきお、なでるのうまいな!』
「良い子だね、クロ」

なんとなく癒される。アニマルセラピーはこんな感じだろうか。なんてことを考えながら、雪男は表情を緩めてクロを撫でる。耳の後ろや、挙げ句腹まで。
クロはにゃ、と鳴いて、雪男の手にすり寄った。

「ん?どうしたの?」
『ゆきおのて、あったかいな!りんとおなじだ!』
「そういえばクロ、君お風呂はどうしてるの?」
『ふろなんかきらいだ!』
「ちゃんと入らないダメだよ。毎日とは言わないけど、せめて週に一回は」
『おれはねこじゃないぞ!』
「あ、こらっ!」

ぴゃっ、と逃げようとするクロを捕まえる。思ったよりもずっと軽く、暖かい。
修道院では生き物は飼えなかったから、雪男はこうして動物と一緒に暮らすのは初めてだ。それはもちろん、燐も同じだが。

「クーロ、君は僕の言ってること分かるんだよね?」
『ふろはいやだ!みずはきらいだ!』
「良い子だから、あとでお風呂入ろう。いいね?」
『やだ!はいらないぞ!』

にゃーにゃーともがくクロに雪男が手を焼いていると、さっきまでSQを読んでいた燐が、なんだか拗ねた顔をして傍らに立つ。

「雪男」

名前を呼ばれる。いつものトーンとは違うそれに、雪男はくすりと笑って燐を見上げた。燐はむーっとした顔で雪男を睨んでいる。

「どうしたの?兄さん」
「別に、どうもしねぇよ」

嘘ばっかり、と雪男は内心笑う。燐の顔も声も、拗ねているときのものだ。
クロが雪男ばかり構うから拗ねているのか、はたまた雪男がクロばかり構うから拗ねているのか。いずれにせよ、雪男には可愛いヤキモチにしか見えない。

「ねえ、兄さん。あとで一緒に風呂に入ろうか?」
「はっ!?な、何言ってんだ、お前!はっ……入るわけねぇだろっ!」
「随分と過剰反応だね。何か想像したの?」
「お前の声がエロいんだよ、バカ!」

顔を真っ赤にさせて尻尾でバシバシと寝台を叩く燐が可愛くて、雪男はくすりと笑った。クロを風呂に入れるのもいいが、燐と風呂に入った方が楽しいかもしれない。なんて不埒なことを考えながら。


おわり


雪男も燐も、お互い限定で独占欲が強いといいな、と思います。


11.05.17


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