エレンが異変に気づいたのは、昼休み中、昼食も食べ終わった頃だった。

「ノエルさん?」
「…あぁ、エレン」

訓練所の端のほうでひとり気怠げに佇む今の彼女は、正直言って顔色が良くない。隣に腰掛けて顔を近づけて見れば、薄らと脂汗をかいていた。普段が元気なだけに、漠然とした不安がエレンを苛む。脂汗を浮かべる程の痛みが、この小さな先輩を襲っているのだと思うと、いてもたってもいられなかった。

「…どうしたんですか!? 横になったほうが、」
「いや、大丈夫だから」
「大丈夫には見えません!」

声を荒げるなりエレンはノエルの肩を抱き、膝の裏に腕を差し入れて勢い良く立ち上がった。狼狽するノエルを余所に、エレンは声高に叫ぶ。

「ノエルさんを救護室に連れて行きます! 訓練、少し遅れます!」
「ちょっとエレン、平気だっ…うっ」

大声を出した反動で、患部に鈍い痛みが走る。思わず口元を押さえれば、エレンは動揺したようにびくりと震え、駆け出したその脚の動きを緩めた。

「す、すいません! 大丈夫ですか!」
「大丈夫…大丈夫だから……静かに連れてってくれるかな」
「…! はい!」

それからのエレンは、存外穏やかに、丁寧に救護室に連れて行ってくれた。ノエルの容体を診た救護班の兵士が呆れたように薬を差し出し、それをまたエレンが受け取った。そして横になったノエルの傍に、エレンが貼り付いているのだった。

「ノエルさん、早く薬を」
「…ありがと、もういいよ。訓練始まるから早く行きなよ」
「ノエルさんを残して訓練なんて行けませんよ!」

早く行けよ、と内心毒づくノエルに、エレンが気づくはずもない。そもそも今回だって、わざわざ救護班に行くこともなかったのだ、強制連行という強硬手段に抵抗するだけの力もなく結果的に横になってしまっているが、本来なら同僚にわけを話せば大目に見てもらえる、その程度の物だった。ノエルを悩ませている下腹部の鈍痛…所謂月の物とは、ノエルに取ってはそういうものであったのだ。

「わたしに付き合ってたらいつまでも訓練行けないってば。ほら」
「付き合いますよ! 今日だけじゃなくて、明日も明後日も、来月も来年も! ずっとです!」
「そ、それは大袈裟じゃない?」

狼狽するノエルを余所に、妙に瞳を輝かせたエレンが再度口を開く。

「大袈裟なんかじゃないですよ! だって、だってノエルさん、生理でしょ!?」
「…え」
「なら明日も明後日も、来月だって来年だってずっとずっと俺が付き合わないと! ね!」
「え、いや、ねっとか言われても」

ノエルさんの下着は俺が洗いますから安心してください! シーツもちゃんと洗いますから!
何処か嬉々として豪語するエレンの声を聞いていたら、どうも頭痛までしてきたようだった。ゆっくりと瞼が落ちる。瞼が落ちる直前、「ノエルさんの生理のお手伝いが出来る日が…とうとう…!」とのたまう、エレンの恍惚とした声が聞こえた気がした。
気がした、で終わりたい。起きたときこの部屋がどうか自分一人でありますように。




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