※limit overの2人

珍しく遅くまで眠っている男を横目で眺めて、ノエルはコーヒーを啜った。昨晩から頭痛がすると言っていたので、恐らくその類だろう。案の定窓の外はバケツをひっくり返したような雨で、折角の休みだというのに買い物にすら行けやしない。する事もなくコーヒーを啜るが、同時に捲っている書物のページ数も残り半分を切らんとしており、どうもモチベーションが下がる。

「…する事がないわ」

普段であればベッドに転がって再び惰眠を貪るのはノエルだったはずだった。しかし、偏頭痛に苛まれている男を押し退けてまでそれをする気にはとてもなれない。押しのけなくても寝る事は出来るが、白昼堂々男の隣で伏せるのは流石に気が引けた。

ソファにずるずるともたれ、やや苦しい体勢になったところで諦めて横になった。普段転寝をすることはあるが、寝心地は到底ベッドのそれに及ばない。溜息をつき、意識が混濁としてきた辺りで物音がした。

「…寝すぎた」

布の擦れる音と、掠れた低い声。声の主は勿論リヴァイで、その地を這うような声音と普段より幾らかゆっくりな話し方から、未だ眠気の醒めない状態とであることが伺えた。

「…おはよ、リヴァイ」
「薬を貰えるか」
「いつものでいいかしら」

程良く怠さを訴える体に鞭を打ち、予め水場に置いていた頭痛薬を取ろうと立ち上がる。薬と一緒に新しいグラスを手に取り、半分程水を注いだ。

「悪いな」
「もう慣れたわ」

まるい形の錠剤を嚥下して、リヴァイがグラスをチェストの上に置いたのを確認してから、ノエルはベッドの端に腰を下ろした。緩慢な動きでまた布団に潜り込んだリヴァイはノエルを一瞥し、布団を軽く捲ると視線で彼女を誘った。

「具合悪いんじゃないの?」
「良くねえよ。あまりにもお前が暇そうにしてるから、貸してやろうと思っただけだ」
「…別に暇はしてないけど」
「さっき暇だって抜かしてただろうが」

起きていたのか、と毒づく暇もなく、リヴァイが再度口を開く。

「ソファで寝てたら風邪引くだろうが…なんだその目。何もしねえよ」
「別にそんなこと疑ってるわけじゃないわ。素直じゃないなと思っただけよ」
「…何が言いたい」
「一緒に寝たいならそう言ったら?」
「こっちの台詞だ」

誘われるがままリヴァイの隣に潜り込んで、向き合って横になる。リヴァイの腕がそっと伸びてきて、自分を絡め取って、引き寄せる。その行動に苦笑しながら、肩口に擦り寄る自分も自分だと、ノエルは目を閉じた。



世界を遮断




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