「待ってってば! リヴァイ!」
「わかっててやったとしか思えんな。躾の理由としては充分のように思うが」
「そんなんじゃないって!」
昼下がり、偶然リヴァイと会った。普段からお世辞にも人相が良いとは言えないが、今日は輪をかけて酷い。顔を合わせるなり倉庫に連れ込まれ、何が何やらわからないうちに詰問にあっている。要件はひとつ。最近わたしとハンジは仲が良い。先も昼食を共にしたところだった。プレイベートでもよく顔を合わせることが多かったことが、どうやらリヴァイは気に入らないようだった。元々機嫌が悪かったのか、この件で機嫌を悪くしたのかは定かじゃないが、こうして遭遇してしまった以上関係のないことだった。このままにしておくとまずいのは火を見るよりも明らかだ。じりじりと倉庫の隅に追い込まれる。何かないかと横目で探せば、薄暗い倉庫の中、ぎらりと輝く何かがあった。
「おら、観念しろ」
リヴァイの手がわたしを捕らえようと手を伸ばす。その一瞬をついて、わたしは手にした銀色の手錠でリヴァイの片腕を拘束した。動きが止まったのを見計らい、もう片腕も拘束。思いのほか、上手くいったことに安堵してわたしは溜息をつく。急に不自由になった両手を見遣り、続けてわたしを見て、リヴァイはにやりと笑った。
「へえ、たまには趣向を変えようってことか。抱かれるだけじゃ物足りねえってことか?」
「え」
愉快そうに、リヴァイは手近な椅子に腰掛けて両膝を広げる。そのままわたしを見て、早くしろとのたまった。何か思っていた展開と違う。急速に体が冷えていく。まごつくわたしを見て、リヴァイは眉を顰めた。
「詫びのつもりなんだろ? 好きにさせてやるって言ってんだ。早くしろ」
困った。
このまま放置はまず無理だ。手錠で拘束されたリヴァイを置いてどこから逃げてもすぐに追ってくるだろう。ブレードなら手錠もすぐに切れる。だからと言って今手錠を外してしまえば、結局今すぐ酷い目にあうことになるのだ。盛大な勘違いをかましてくれたおかげで一命は取り留めたが、状況としてはまったく変わっていない。むしろ悪化した。リヴァイ兵士長はわたしの行動をご所望だ。
「や、あの、リヴァイ」
「なんなんだ、ぐずぐずすんな。…こうすれば満足か?」
そう言うと、リヴァイは手錠の掛かった片手を使って器用にスラックスの留め具を外し、ジッパーを下ろした。立体起動のベルトは流石にどうにもならなかったようで、早々に諦めて下着を見せつけるようにスラックスを緩ませる。黒のボクサーパンツの上を、自ら撫でる。リヴァイは楽しげに鼻で笑い、挑発するようにわたしを見た。来いよと、唇だけで囁かれる。リヴァイの指先はいやらしく、下着の上を這った。端からすれば自慰のようなそれを見せられて、何も思わないでいられるはずがない。だってそんな場面は、わたしだって見たことがない。セフレのような関係のわたしたち。自慰を強制させられたことはあれど、リヴァイのそれを見るのは初めてで、思わず目を逸した。
「おい、ノエル。こっち見ろよ。わかってんだよ」
「…っ」
一体どこで何がこの男に火をつけたというんだ。完全に飛び火で辟易。意を決して、リヴァイの前まで歩み寄る。膝をついて、立体起動のベルトを緩めて、取り外すのもおざなりにリヴァイの手首をつなぐ手錠を掴んで引いた。上体が傾いで、リヴァイの顎がわたしの肩に乗る。密かに笑った気配がした。手錠を引いたまま、空いた右手でボクサーパンツの上から擦る。既に半勃ちのそれを指先でつついて、パンツを脱がす。ゆっくりと起きるそれを撫でて擦れば簡単におおきく、かたくなった。先端の溝に沿ってなぞってやれば、小さく震えたような気がした。しばらくそうしていれば段々と先走りで濡れてきて、わたしに凭れたままのリヴァイが体を引く。
「…あんまり焦らすな」
「わかってるわよ」
右手で扱くのはそのままに、左手で玉を触る。ぬるぬるしたリヴァイをぱくりと咥えてずるずるとすすれば、頭上でリヴァイが息を詰めた。それが楽しくて、すすったり舐め取ったり、先端だけいじめてみたりしていると、またリヴァイが不機嫌そうに声をあげる。
「ノエル、もういい」
「…っは、そう」
「…すっかり乗り気じゃねえかよ」
「自分でやっておいて、よく言うわ」
リヴァイのスラックスを膝下まで下げて、立体起動のベルトも外す。自分も同じように脱いだところで、腰の上に跨った。椅子の幅が小さくて、片足分しか置けそうにない。気を付けないと落ちてしまいそうだった。リヴァイの肩と、近くにあった机を掴んで腰を揺すっていれば、リヴァイが低く呻いた。声がもっと聞きたくて、掴んでいた肩を抱くようにして密着する。体勢が変わって、擦れる部位が少し深くなる。
「ひっ、んあ…!」
「っ…ナカ、ぐちゃぐちゃじゃねえかよ…!」
「言わない、でえ…っ」
手錠とは言え拘束して、自慰なんて見せられて、自分からフェラなんてしちゃって、清掃は行き届いているけどどこか埃っぽい雰囲気の、こんな倉庫で事に及んでいる。しかも真昼間から。興奮しないわけがなかった。対面が久しぶりだからというのもある。抱きついた腕に力を入れて、腰を揺すった。段々脚も疲れてきて、椅子の上にギリギリで乗せていたのを下ろしてしまった。そのまま椅子の脚に自分の脚を絡ませて、ぐにゃぐにゃと腰を動かす。上下に揺するのとは当たるところが違って気持ちよかった。
「あ、あっ、ひゃあ、リヴァ、イ」
「っおいふざけんな、こんなん見せられて…っ」
ただで済ませられるか、そう吐き捨てるように言ったリヴァイが、手錠で繋がったままの両手を上にあげる。そのまま腕の間にわたしをくぐらせて、わたしの背に手を回した。抱えられたと思った瞬間、思い切り突き上げられて息が詰まる。
「っひ…! や、やだ、やだぁ…!」
「人のモン使って、マスかきとはいい度胸だよな…!」
「ひゃ、んん、リヴァイ、や、激し…っ」
激しい律動に耐えられなくて、必死にリヴァイにしがみつく。ぐちゃぐちゃに掻き回されて、突き上げられて、応えるように掻き回して腰を振って、頭が真っ白になって止まらない。きもちいい。
「もう、だめえ…っ、や、ああん……っ!」
「…っ」
しがみついたままのわたしと、両手を拘束されたリヴァイ。快楽に流されるまま、じんわりと広がっていく熱をナカに感じて、わたしは少し後悔の念を抱いて目を閉じた。
起きたら日が傾いていた。服装に乱れがなかったことから、おそらくリヴァイが直してくれたのだろうと推測する。机の上には破損した銀色の手錠が置いてあって、案外脆いものだったことを知った。うっかり中に出してしまったので医務室で薬を拝借して仕事に戻れば、勤務中に姿を晦ましていたことを注意されて散々な目にあった。おそらくリヴァイ兵士長はこういうお咎めもないだろう。エルヴィンには言われるかもしれないが。
「あ、おーい! ノエル!」
「ハンジ」
「具合が悪かったんだって? 大丈夫?」
「大丈夫。医務室で薬ももらったし、心配かけて申し訳ないわ」
「問題ないならそれに越したことないよー。あ、そういえばさっきリヴァイと会って」
「リヴァイと?」
「なんかお菓子もらったよ! あとでノエルも一緒に食べようよ」
あとで執務室でねと言い残して去っていくハンジの後ろ姿を見送って、溜息。どうやらリヴァイの機嫌は、元凶すら有り難く感じる程度には回復したようだった。微妙に疲労の残る脚をさすりながら、ノエルも仕事に戻った。
現金なのも困りもの