※2万企画shall we love?の続きです


ノエルが俺をやたらと慕っていることは流石に知ってたし、訓練も真面目にやってるし、何よりちょっとかわいい。まあ、かわいいはともかく、俺の隊に所属希望を出してきた彼女の面構えは真剣そのものだったから、俺はノエルを自分の分隊所属にしたのだ。思った通り、彼女は訓練も座学も真面目に取り組んだし、アドバイスをすればすぐに取り入れる素直な子だった。熱すぎるのが玉に瑕と言ったところだが、昔の自分を見ているようでなんだか微笑ましい。そんなわけで、恋愛感情の有無はともかく俺はノエルのことが気に入っていたのだ。

あの日またもや俺に向かって過度な尊敬の念を垂れ流すノエルの目が、あんまりにもきらきらしていて眩しかったものだから、お前に好きな人はいないのかとからかってやれば、真面目な顔をして俺のことを考えていたとか言い出すから、さすがの俺も動揺した。彼女はまだ小さい。年こそ大きくは変わらないけど、確かに彼女はまだ子供なのだ。子供ゆえの憧れと恋愛感情を、いい大人である俺がごっちゃにしていいはずはなかった。
なのに、俺はついうっかり言ってしまったのだ。俺のこと好きなんだろ、なんて。ぽかんとしたあと、ぼっと赤面した彼女の顔が、いまだに忘れられない。彼女はその後も健気に平常を装っているようだが、やはり子供が装う平常など微笑ましいものでしかない。

「ああああ、アルミン俺どうしよう」
「えっ、なんだよ急に」
「俺余計なこと言ったかもしれない、でも責任取れない」
「…ああ、ノエルちゃんのこと?」
「あ!?」

書類を書いていたアルミンが俺を見て小さく笑った。おそらく相当間抜けな顔をしているのだろう、俺はむっとしてアルミンを睨みつけた。

「なんでアルミンがノエルのこと知ってるんだよ」
「彼女のエレン好きは結構有名じゃないか。恋愛感情の有無はともかくね。エレンのことだから、俺のこと好きなんだろーとか言っちゃったんでしょ?」

返す言葉が無さすぎて俺は机に突っ伏した。そうですそれです。憧れだけで終わらせてあげるのがノエルのためだったのに、余計なこと言って好意レベル引き上げたのは他でもないこの俺です。

「まあ、正直ね…こんなご時世だ、僕たちが新兵だったときより状況は随分いいけど…あまり浮ついた気分でいるのも良くないとは思うんだよ、僕も」
「…だよ、な。俺もそう思う。あー、ほんと、余計なことしちまったなあ」
「でもさ、エレンはノエルちゃんのことどう思ってるの?」
「俺?」
「自分の班に入れるくらいだし、結構好きなんじゃないの?」
「そりゃまあ、あいつの熱心な所とか素直なところは評価してるけど」
「エレン」
「いや、そういう目で見てたわけじゃねえんだよ本当に…いやかわいいとは思うけどよ…」

僕としてはねえ、彼女をこのままふわふわとした気分のまま壁外調査に出すのは危険だからね、エレンがうまくまとめてくれないと困るなと思ってるんだけどねえー、そういうアルミンの声音はどこか皮肉めいた声音で、俺は座っていた椅子の背もたれに背中を預け、首を真上へと向けた。ノエルのことは好きだけど、そこまで熱い想いを持っているわけでもないし、彼女の未来と俺の今後の命の保証を考えると迂闊なことも言えなかった。クリーム色した天井をぼうと眺めていると、背後で小さくドアを叩く音がした。どうぞ、とアルミンが声をかける。

「ノエルです。エレンさんいます?」
「へ、っうわ!?」

考えていたその人の声がして、動揺して身体のバランスを崩す。椅子もろとも後ろに倒れこんだ俺に、何してるんだと呆れたようにアルミンが声をかけた。

「何してんですかエレンさん…大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫…俺になんか用事か?」
「あ、えっと兵長がエレンさん呼んでこいっていうから」
「兵長が? なんだろ…悪いな、伝言とか頼んじまって」
「いえ、構いませんよ! 兵長にこき使われるのなんて日常茶飯事ですし、大体、エレンさんのためだったらわた、」
「待て、今なんつった?」
「え?」

リヴァイ兵長にこき使われてる? ノエルが? どういう繋がりで? 偶々か? でもいま日常茶飯事って、

「なんでお前兵長とそんなに親しいんだよ」
「え、いやまあ…色々あって、リヴァイ兵長には目つけられてるっていうか…」
「…アルミン、俺ちょっと兵長のとこ行ってくるから。ノエル、あとでお前俺の部屋来い。いいな」
「ああ、いってらっしゃいエレン。気をつけてね」
「ちょっと、エレンさん!」
「またな」

後に残ったのは、面白いことになったと笑みを浮かべるアルミンと、何がなにやらと言った顔で立ち尽くすノエルの2人。
エレン分隊長がリヴァイ兵士長の部屋に乗り込み、うちの部下を勝手にこき使うのはやめてくださいとやたらに噛み付いて返り討ちにあったのは、また別の話。





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