正直犯罪だと思う。
こぼれおちそうなほどに大きな瞳は、きらきらと、時にぎらぎらと光る透き通った翡翠色。目を伏せたときなんて長い睫が影を作ってなんだか色っぽくて、横目でこちらを見るしぐさがもうたまんない、折れそうなほど細い体躯なんて見かけだけで、その華奢さにそぐわないくらいの筋肉がついてて、だけどごつごつしてなくて、しなやかで、綺麗で、腕まくりしたときに見える腕の筋肉のスマートさなんて右に出るものはいないくらい。きゅっとくびれた腰なんてほんと抱きつきたくなるくらい色っぽくて、その腰からすらっと伸びる脚と、ふともものあの曲線なんて芸術かと思ってしまう、特にあの内太もものラインなんてまさに神の与えし絶対領域、アダムだのイヴだの、神様がどうこうだのそんなものは信じてないけど、彼のあのふともものラインを形作ったその人にわたしは土下座して地面に頭擦り付けて感謝の念を述べたいくらいだ。
何が言いたいかというと。

「おいノエル、大丈夫か? 体調悪いのか?」
「えっ、だ、だいじょうぶ! ほら早く腕出して」
「ならいいんだけどよ…、悪いな、頼むぜ」

何が言いたいかというと。
わたくしノエル・ベッシュハルト。現在救護室に想い人であるエレン・イェーガーとふたりきり。
仲良しではあるものの友人の域を出ることは叶わず、また想いを伝える機会にも恵まれず、このままお互い浮いた話をする余裕もないままに生きていくのだろうかと切ない思いを抱いたりもしていたがうっかり好機に恵まれてしまった。立体起動の自主訓練をしようと訓練場に出たら同じく自主訓練をするところだったエレンと出くわし、これはラッキーとふたりで真面目に訓練に励んでいたところ、エレンが不注意から木に擦って擦り剥いてしまったのだった。本来オフの日であるがゆえに救護室には担当者もおらず、こうしてふたりで救護室にいるのだ。ふたりで。救護室に。声を大にして言う、救護室に。
何が言いたいかというと。
わたくしノエル・ベッシュハルト。想い人であるエレン・イェーガーを押し倒したくて辛抱たまらんのです。
エレンを押し倒したい気持ちをぐっと堪え、今消毒液を含んだコットンを構える。

「い、いくよエレン」
「おっと、待った。消毒液がジャケットに付くかもしれねえな…脱ぐわ」
「えっ!?」

エレンはそういうと盛大にジャケットを脱ぎ、シャツ一枚になった。薄いシャツ一枚になった彼は患部がある左腕をぐっと捲り、その腕をわたしへと差し出す。すらっとした、筋肉のついた腕がわたしの前に晒される。適度に日焼けした皮膚の表面に、今しがたついたばかりの傷が広がっている。大した傷ではないが、放っておくとあまり良くないことは明白だった。そんな腕より傷口よりわたしは眼前にあるエレンの体躯が気になって仕方なかった。汗ばんだシャツは身体にはりつき気味で、彼の華奢な体躯と筋肉を否応なしに強調させている。腰から胸筋にかけてのなだらかな、子供のようで、それでいて男性的なラインを視線で辿り、辿って、とんでもないことに気づいた。

(神様ありがとう訓練ありがとう、そしてわたしの理性ありがとう、エレンの乳首をこんなに近くで拝める日がくるとは思いませんでした)

汗ではりついたシャツはエレンの乳首の存在を薄っすらとわたしに教えてくれていた。右手に持ったピンセットが歓喜に震える。慌てて視線をピンセットとエレンの腕に戻し、恐る恐る傷口に消毒液を当てた。

「いっ…てえ」
「やっぱり染みるんだ? 我慢してねー、化膿したら大変だから」
「あのさもうちょっと優しくやってくれよ、優しく!」
「で、でも木の棘みたいなのがここに入ってて!」
「ちょっとくらいは仕方ないだろ、風呂入ったときにそのうち取れるって…っ、」

傷口にはまり込んだ細かな棘に躍起になると、エレンが小さく息を詰める。息の詰め方が、意図してないんだろうなあ、とても性的で、痛みに歪める顔が、目頭にうっすらと浮かぶ涙が、集まった血液で赤く染まる頬が、何もかも色っぽく見えて思わず頭を抱える。

「…おい、ノエル? ほんとに大丈夫か、お前のが体調悪いんじゃないのか?」
「そうじゃない…そうじゃないんだよエレン…!」

俯いてエレンを視界から追いやっても、不審がった下からエレンが覗き込んでくる。上目遣い。赤みの抜けない頬。近づく距離と、ふわりと漂う汗のにおい。エレンのにおい。兵団の備品の洗剤と柔軟材の香りなのに、エレンが身に纏うと少しだけ、太陽のような、母親のような、なんだかあたたかい香りがしてわたしはいつもそれが不思議だった。

「エレン、」
「おう、どうし、」
「エレン!」

覗き込んでくるエレンの頭を抱え込んで、首に腕を絡めて首筋に顔を埋めた。耐え切れずにそのままぺろりと鎖骨の上を舐めれば、身体がびくりと反応する。

「ちょ、な、何するんだよ!? 待っ、、ちょっと待てノエル」
「ご、ごめんエレン、でも、あの、……わ、わたしもう無理、ごめ、」
「待てっつーの!」

思ったより柔らかで弾力のあるエレンの肌。まともでいられるわけがない。正に据え膳だ。首筋に吸い付くわたしの肩を引き剥がそうと躍起になったエレンに抵抗して腕を掴み、その腕をまたエレンが掴み、軽く取っ組み合いになる。押し問答が数分続いた結果、哀しき哉男女の力の差というか持久力の問題というか、床に押し倒され動きを封じられているのはわたしだった。

「お前ちょっと火事場の馬鹿力発揮しすぎだろ…普段からこのくらいの勢いで対人やれよ…」
「う、うるさいよ、」

しっかりとマウントを取ったエレンはご丁寧にわたしの腕を軽く一纏めにして拘束して安心したのか、一息ついたあとにじろりとわたしを見下ろした。当のわたしと言えば、マウントを取られ腕を拘束された挙句見下ろされているという願ったり叶ったりな状況下で、身体は正直なもので歓喜に震えている。

「それでノエルさん」
「はいなんでしょうエレンさん」
「色々聞きたいことも言いたいこともあるんだが、」

そこまで言うとエレンはぐっと顔を近づける。吐息が触れそうな距離になって初めて、エレンの翡翠色の目に獰猛な色が宿っていることに気が付いた。正直驚いた。こんな目をするのかと、さっきまで喚いていた子供はどこにいったのかと。夢にまで見たエレンの雄の目に睨まれて息が出来ない。

「後ででいいよな?」

拒否権なんてなく、頷くしか出来ないわたしを一瞥して彼はにやりと笑った。そっと首筋に触れた唇が熱くてどきりとする。エレンはさっきわたしがしたように鎖骨をぺろりと舐めると、思い切り吸い付いた。ちくりと痛みが走る。エレンはわたしの立体起動装置のベルトを外すと、脱がすこともそこそこにわたしのシャツの中に手を忍ばせ、焦らすように探るように、指先だけで身体をなぞった。

「っ、ん」
「言っておくけど、先に手出したのはノエルだからな、」

下着をずり上げて胸元をまさぐりながらそう呟くエレンには応えずに、わたしは自由になった腕を伸ばしてエレンの腰を撫でた。ひくりと跳ねる下肢を立てた両膝で固定して、ズボンの上から触る。布越しでもわかる熱と、手に押し付ける仕草にきゅんとする。興奮してるんだ、エレンも。

「いいじゃん、エレンだって、さ、楽しいんでしょ、…あっ、やぁ…!」
「…お前、ここ凄いことになってるぞ。まだ大したことしてねえのに」
「ん、やだっ、見ないで…!」

ズボンを膝あたりまで下ろされて、下着の上からなぞられる。エレンの言うとおり、大して触られてもないのにそこはぐしょぐしょになっていて流石に恥ずかしい。痴女かよと、意地悪げに囁くエレンがわたしの目を見てにやりと笑って、それがまたわたしの興奮剤になる。エレンはそっとわたしを抱き起こすと、自分の膝の上に乗せた。

「ほら」
「ほ、ほらって何、っひ、やあ…ん」

するりと太ももを撫でられる。きゅっと目を瞑れば、エレンが耳を甘噛みする。

「何今更しらばっくれてんだよ。こういうこと、したかったんじゃないのかよ」
「えっ、いや、ちがっ、」
「好きなくせに。オレのこと」

言葉に詰まる。エレンを見れば、ぎらついたあの翡翠色の瞳で口の端を片側だけ上げて、あの薄い唇が、噛み付きたくて舐めたかった、夢にまでみたあの薄い唇が、来いよと囁いた。




「んあ、エレン、えれ、はあ、んっ、あぁ…っん、や、好き、すき、なの…っ、」
「っあ、そんな、締めんな…! ちょっと、っ、ん、おい、ちょっと止まれ、!」
「や、やあ…っ! やだ、とまんな、ん、エレ、ンっ…」

エレンの上に跨って、くなくな腰を振って、もう止まんなくてただ気持ち良くて、真っ赤な顔して鼻息荒くして、気持ち良さそうに目を閉じるエレンが可愛くて、ナカのエレンがぴくぴく震えるのも可愛くて。もうどうにかなりそうだった。エレンの出した精液でわたしたちのシャツもズボンもぐちゃぐちゃで、床だって見るも無残な姿で、でもこれをわたしとエレンがやったのだと思うともう堪んなくて。何度目かの限界を迎えそうなエレンがわたしの腰をぐっと引き寄せて、あの華奢でしなやかな綺麗な腕でわたしを抱きこんだ。エレンの荒い吐息が耳にかかって、その吐息がまた熱っぽくて。

「っくそ、っ、ノエル、ノエルっ…」
「あっ、や、やだ、エレン、ひゃあ、やだ、イっちゃ…! あぁあ、は、やだぁ…!」
「イけよ、はや、く…!」
「や、だ、んあ、えれ、や、わたしまだ、いきたくな、ん、ぁ」
「散々、イってるだろ、うが…!」
「や、だぁ…! まだ、まだエレ、ン、…ひゃあん、あ…す、き、すき…!」

ぐちゃぐちゃと鳴り続ける結合部を、エレンが下からぐっと突き上げる。動きにくいだろうに、わたしがぐにゃぐにゃと腰を振るのに合わせて彼が動く。抱き締められた腕の中も耳にかかる吐息も、なにもかも熱くて、もう何も考えられない。

「…っ、ノエル、オレ…!」
「ん、あっや、ひゃん、あぅ、エレン、う、いっしょ、に、イこ…、」
「…っ、」
「うぁ、あ、やぁあ、んぁ、エレン、エレ…ン、んぁ、やあ…っ!!」

びくりとナカのエレンが震えて、何度目かの絶頂を伝える。それと同時にわたしも果てる。じわりと広がる熱に溜息。エレンも同じように溜息をつくと、わたしをぐっと抱き寄せて肩口に顔を埋めた。

「…エレン、あのさ」
「…うるせえよ、痴女」
「ご、ごめん、でも、」
「…好きって、あれ、どうなんだよ」

エレンが緩く顔をあげて、わたしの顔を覗き込む。情事の色と、疲れの見える表情で、だるそうな拗ねたような声音を乗せて。

「そもそもなんなんだよ急にさあ、急に盛りだすからさあ、オレ、」
「あっいや、違うの! 違うんだよ、わたし、あの、ずっと」

はあと大きく溜息をついたエレンがまたわたしを抱き締めた。知ってたからいいよ、とだけ呟いて首筋にキスマークをつけるエレンがやっぱり色っぽくて、悔しくて、一体この状況をどうしたものかと必死に考えを巡らせては、とりあえずエレンにしっかり告白しないとならないんだろうなと憂鬱になったのであった。





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