終わっていくだけの人生に意味なんてあるのかい?俺にはとてもそうは思えん。
ましてやそんな絶望的な未来を誰かの分まで一緒に背負うだなんて。
じゃあ君は、自分の未来を、終わっていくだけの未来を、大事な人に押し付けることができるのかい?
…そういうことさ。人を好きになることはさ、覚悟であり、罪でもあるんだ。

ねえ君、恋は、罪悪なんだよ。






見知らぬ少女にそう言って泣かせるのを私は隣の部屋で聞いていた。おそらく臨也の信者の子だろう。彼女が突如押しかけてきたことで隣の部屋に逃げ込まざるを得なくなった。こういうことは度々あるし何度かその場面も見ているが、そのたびに臨也の悪どさを痛感する。

ガチャリとドアノブが回される。

「いやーごめんごめん。もういいよ」
「今更お前の素行を正そうなんて思ってないけど、ほんと…さ…」
「まあ、いまさらではあるよねえ」

あっけらかんと言い放つ臨也に溜息。
戻ったリビングは、修羅場のあとだと言うのに綺麗だった。毎回静かな修羅場だといいのに。
臨也の言った言葉を反芻した。有名な文豪の、これまた有名な言葉だ。
恋は罪悪、ねえ。

「なんか意外だね。臨也はああいうこと言わない気がしてた」
「そうかな。あの子が出典を知ってるかはわからないけど」
「有名だし知ってるんじゃない、あれくらいは」

臨也は毎回手を替え品を替え女の子を引っ掛けてはこうして振っているけど、私にそんなことを言ったことはない。どちらかというと愛の言葉を囁く方だ。
もっとも、わたしと臨也はある種ギブアンドテイクな関係だし、男女の色恋とは無縁なのだからそういう意味は孕まないが。

「臨也さあ、恋する女の子の気持ちって考えたことある?」
「何、急に」
「むしろ恋したことある?」
「恋するより先に愛してたよ」
「人間に、でしょ」

そう返せば臨也は楽しそうに笑った。

「いやー、でも俺は気に入ってるよ。悠理のこと」
「そりゃどうも」
「むしろ考えたことも理解したこともないのは悠理の方なんじゃないの?」

どういう意味だよ、と言いたくなって思わず眉間に皺が寄る。
臨也は淹れ直したコーヒーを持ってソファに座った。それに倣って私も座った。するりと伸びる腕。絡め取られる身体。思っていた以上に体格差はある。

「俺がこんなに大事に大事に想って口にも出して、家にもあげてコーヒー淹れて泊めて、流れに任せて抱いたりしてるのに、それでも悠理はわかんないっていうの」
「…、私はお前がなに思ってるか知らないしわかんないよ。私は今のお前との関係がわからない」

もしかしたら他人から見た私たちは友人崩れのセフレなのかもしれない。実際そうなのかもしれないとまで思ってる。だけど、セフレなんて軽い、下卑た響きの意識を持って臨也と一緒にいるわけじゃない。臨也が私をそういう意味で愛してるかなんてわからない。
相手が臨也だ、わかってることなんて微々たるものだ。それこそ、言葉にしにくいことばかりで。

「悠理は俺のことどう思ってんの」
「大事…だとは思ってるよ」
「俺は悠理がいなくなったら困る。これはね、仕事とか関係ないよ。君の特異体質も関係ない。風真悠理がいなくなったら困る。悠理は」
「臨也がいなくなったら?」
「シズちゃんに殺されたりして、いなくなったら。どうする?」
「…………つまんなくなる、よね」
「…素直じゃないね」

私を絡め取っていた腕が離れていく。小さく溜息をついた臨也はソファの背もたれに体重を預けながら私を見た。

「関係に名前が欲しいならあげるよ。悠理が欲しいって言うならあげる」

再度腕が伸びてきて、指先が私の頬に、唇にゆっくりと触れた。かさついた指先。触れた部分が熱を帯びているのに気づいて、臨也はやわらかく笑った。

「恋は罪悪なんだってよ。だとすれば俺は極悪人だ」
「…元々じゃん」
「悠理が頷いてくれればね、恋じゃなくなるから。極刑は免れるの。それはもしかしたら悠理も同じかもしれない」
「…うん」
「ねえ、好きだよ。俺と一緒にいてよ」





懺悔を乞う前にどうか





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