「どしたの? なんか元気ないね」
「…、実物に会うのは久しぶりだな」
「そだね。静雄は見つけやすくて助かるよ」
「いつ帰ってきたんだ?」
「昨日」

久しぶりに帰省した池袋で、公園のベンチに佇む静雄を見つけた。目立つ金髪は、それ以上に目立つバーテン服が何かで隠れていようともその人が静雄であると教えてくれる。
静雄は私の幼馴染であった。連絡はわりとこまめにとっていて、池袋を離れた今でも彼の近況はわりとよく知っている。だからこそ、離れている期間が長くても実感はあまりなかった。

「…また仕事で失敗しちまってよ。トムさんに迷惑かけちまった」
「トムさんって先輩だっけ? 上司だっけ?」
「一応上司、かな。いやどっちも変わらねえのか? あれ?」

どうでもいいところで悩みだす静雄を目で制して、話を促す。いちいち話が脱線して元の話がわからなくなるなんてのは、静雄との会話ではザラだった。

「また暴れちまってよ、壊しちゃいけねーモンまで壊しちまった。今トムさんが謝りに行ってくれてるんだけどよ、俺、申し訳なくて顔合わせられねーよ」
「うーん…まあそういうのは社会では…静雄のとこだけじゃなくて、世間的によくあることだよ。皆がそうして、先輩に迷惑かけて一人前になってく」
「…そういうことが聞きたいわけじゃねーよ」
「えへ、だろうなと思った」

自分の右のてのひらを見つめては、溜息をつく。そんな静雄の頭をぽんぽんと撫でて、私は言葉を捜した。やっぱりいらないかなと思って、捜すのはすぐにやめた。

「…俺、こんなだから、トムさんと会うまで仕事も続かなかったし、何も出来なかったし…トムさんには本当に感謝してるんだよ」
「うん、」
「だから本当はいつも、ちゃんとお礼だって言いたいし、恩返しだってしてえし、…トムさんだけじゃなくて、社長にも、別に仕事だけじゃなくて、他の連中とか」
「うん」
「だからかなあ、俺が大事に思ってるからかなあ、こえーんだよ、みんなの本心っていうか、そういうの、探るのも、知っちまうのも」

いつも静雄から聞かされる、彼の世界はカラフルだ。
今日はトムさんが、門田が、サイモンが、誰が彼がと、彼の身の回りを彩っては鮮やかに、そして確実に幸せのタービンを回転させているのだ。静雄はそれに気づいていなくて、いつも何かに怯えているのだと、久しぶりに顔を合わせて気づいた。人からの愛を正面から受け止めては持て余して、持て余したそれの中身が気になって。愛だと思ったそれを、純粋に信じることも出来ずに。
不器用だなあと改めて思って、その右手をそっと握ってやった。

「大丈夫だよ」
「…なにが、」
「昔を思い出してみればいいじゃん、本当に静雄のことを怖がったり、嫌だと思ってたら、みんな関わったりしないんだよ」
「…」
「みんな、静雄が好きだから一緒にいるんだよ。それは、信じてよ」
「…お前も?」
「当然」

静雄がそっと目を閉じた。長い睫毛が風に揺られて震える。静雄の左手に閉じ込められていたサングラスを奪って、覆ってやった。

数年ぶりにした恋人繋ぎは酷く懐かしくて、あたたかかった。









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