時々グリーンは遠い目をして、ずっと遠いところを見ていることがある。
どこ見てるの、と聞くと、彼は決まって世界の向こう側、と答えた。




世界に向こう側なんてないんじゃないかと思う。向こう側とは言ったって、それは自分の目で視認できないからそう呼ぶのであって、歩いていけば「向こう側」はどんどん遠くなって、どこまでいったって届きやしない。そう言えばグリーンはからからと笑った。

「そういうんじゃねーの。確かに物理的には存在しないかもしれないけど、あるだろ、向こう側。概念みたいな」
「まあ…そう言われるとそうだけど」

グリーンは風になびく自分の上着のポケットに手を突っ込むと、肩を竦めた。長めの襟足が押し込められてくしゃくしゃになる。

「その概念的に向こう側を、俺は見てるの」
「…何かあるの?」
「ある」
「何があるの?」
「内緒。お前にはまだわかんねーよ」
「ひどい」

風に揺られて膨らむ、ポケットに入れられたグリーンの右袖を掴んだ。力一杯握りしめてるのに、手のひらの中の布地の感覚があまりにも希薄で不安になる。
力いっぱい握って麻痺した神経のせいか、それとも。

「…グリーンもいつかそっち行っちゃうの?」
「そのうちな」
「…いやだ」
「ん?」

あっさりと言われた言葉に少なからずショックを受ける。いつかその「向こう側」にグリーンがいってしまったら、私はどうなるのだろうか。世界はどこに行くのだろうか。

「グリーンがいないのはいやだよ」
「…まだ当分は行く予定ねーよ」
「…、いやだよ」

小さく絞り出すようにして吐いた言葉が震えていることに気づいて、咄嗟に口をつぐんだ。情けない、こんなことで不安になる私も、グリーンの言葉の意味がわからないでいる私も。
グリーンはそんな私に困ったように、右袖を掴んだままの私の手をとって絡めた。

「お前一人残すような真似はしねーよ」
「…うん」
「お前が行くようになるまで、俺は待ってる」
「…、グリーンが行くときに一緒に行くよ、私」
「それはだめ」
「なんで」
「俺が待ってたいの」

かがんだグリーンがそっと前髪をかきわけて、額にキスする。
結局何もわからないけど、グリーンがいてくれるならそれでいい。
グリーンもそう思ってるといいななんて、淡い期待だけ握り締めた。








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