シャワーを浴びてから部屋に来いという兵長の言葉を思い出して心底億劫になりながら、私は髪を乾かしたあと別のエプロンをつけて兵長の部屋へと向かった。時間はまだ早い。黄昏時と言ったところで、徐々に闇が空を覆っていくのが窓の向こうに見える。もちろんこの窓は今日自分で拭いたものである。
兵長の言葉におそらく他意はないはずであった。シャワーと部屋という単語にやたら過敏になってしまったが、まさか侍女というだけで何かを強制される謂れはないだろう。というかそこまで業務内容に含まれているのであれば私はエルヴィン団長の頭髪を毟る勢いで猛抗議しなければならない。

兵長の部屋の前まで着く。軽く呼吸を整えてドアを叩いた。一枚の板で隔てた向こう側から、静かな返事が聞こえた。

「カーヤです。失礼します」

ドアを引いて中に入ろうと一歩踏み出した瞬間、パン、ともバン、ともつかぬ破裂音が耳を劈く。火薬の匂いが鼻を突いて私は思わず伏せた。伏せた勢いのまま軽く前転し、部屋へ転がり込む。敵襲? 火薬の匂い? 発砲? なぜ? 兵長の安否は?

「兵長! リヴァイ兵長! ご無事ですか!?」
「俺は無事だが」
「………あれ?」

見上げれば机の脚。傍らには執務室と同じ革張りのソファと、呆れたように私を見下ろす兵長の姿があった。

「…おい、どうすんだリュウトよ。始末しろ」
「いや…私もまさかここまで真面目に対応されると思わなかったっつーか…」
「…すいません、ちょっと現状がこう、あの」

振り返ればドアの前でたはは、と苦笑いするリュウトがいる。周囲には紙吹雪。手には何か小さなものを握っていて、微かに立ち上る煙が、先の破裂音の出所を教えてくれていた。

「やーほんとにごめん! まさかそんなに驚くと思ってなかったんだよ! これ、クラッカーって言って、ハンジが作ってくれたんだけどね。あはは」
「あははじゃないよ…!」
「いや違うんだ! 驚かせようとは勿論思ってないって! いや思ってたけど、サプライズっていうかさあ」

困ったように弁明しながら笑うリュウトと、背後で小さく溜息をつく兵長の空気は呆れたようで、どこか穏やかで。
立ち上がり、机の上に並ぶお茶菓子を見てはじめて、ある意味成功してある意味失敗したこのささやかなサプライズが自分の歓迎会であったことに気づいたのだった。


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