「…兵長、終わりました」
「…今度こそまともに掃除出来たんだろうな?」
「…はあ、まあ…ちょっと…自信はないですね…」

さっさと歩いていく兵長の後を追いかけて、今しがた掃除を終えたところまで戻ってくる。兵長は窓を見、窓枠を見、床を見、壁を見て静かに振り向いた。眉間には凄まじい皺。だめだこれは。諦めの表情が顔に出ていることを自覚するが、もうこれは許されてもいいだろう。兵長も少し眉尻を下げてみせ、小さく溜息をついた。

「最初から完璧に出来るなんざ俺も思ってねえよ、安心しろ」
「…精進します」

結局一日がかりで本部の掃除をしたが、報告しては駄目出しされ報告しては駄目出しされの繰り返しで心の底から気が滅入った。下手をすれば訓練よりきつい。とりあえずやるだけのことはやったという変な達成感だけが私の胸を埋めた。

「しばらくこのまま本部を掃除しろ。出来るだけ早く、完璧に、こなせるようになれ」
「は、はい。精進します」
「…ふん、エルヴィンの言いたかったこともわからなくはない」
「…どういうことでしょうか」
「俺と同等に掃除が出来る人間がもう一人いれば、俺の負担が減る。物理的にも精神的にも」
「はあ」

つまり、私が日頃から掃除をしていれば兵長は休日返上で本部の掃除をせずとも済みますし、汚れを気にせず執務に励むことが出来るということでしょうか。
物分りがいいなと淡々と告げる兵長は踵を返し、廊下を歩き出す。私自身の戦闘力は特に秀でていたわけではないが、仮にも調査兵団の兵士である。訓練の時間を割いてまで掃除なぞしていていいのだろうかと考えていたのだが、慌ててその背中を追った。隣に並んだところで自分が侍女であることを思い出して慌てて兵長の背後に回った。

「今日は俺ももう終業だ。茶を淹れろ」
「は、はい」
「…その前に」

くるりと振り返って私を制す。

「お前、埃っぽくてきたねえからシャワー浴びろ」

言うと思ったよ。


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