朝礼が終わった。
朝礼中、私が今日から兵長専属班に異動になったことを団長が皆に伝えた。羨望の眼差しと哀れみの眼差しを一緒くたに受けて、既に疲弊した。
そして私は、今この人と一緒にお茶をしている。

「やー、ほんとツイてないねーお互い! ま、あの人小言は多いし正直付き合いきれないとこもあるけどさー、悪くないよこの班も!」
「この班もって…あなただけじゃないですか、班員」
「それを言ったら元も子もないって…今日から君も班員なんだから」

がんばれよ〜と気の抜けるような声音で、軽く背中を叩いてくる彼女の名をリュウトと言った。彼女は所謂リヴァイ兵士長専属の整備士だった。元々は調査兵団の技巧部の一員だったのが、腕を見込まれたのが幸いし(幸いだったのか否かは彼女のみぞ知る)、いつのまにか専属になっていたらしい。
団長の言う「兵長専属班」というのは恐らく彼女と私の2人のことを指すのだろう。明らかに面倒そうなものに配属される私の気など知ってか知らずか、リュウトは素直に嬉しそうに笑った。

「しかし、割と真面目にツイてないね。昨日までは団長補佐だったんでしょ?」
「ええ、まあ。補佐って言っても大したことはしてなかったですけど」
「世話するのが団長からリヴァイ兵長にねえ…やー、同情するよカーヤ…」
「それはどういうことだ?リュウト」
「!?」

背後から聞こえた声に同時に肩を震わせた私たちは、即座に立ち上がり、声のした方向へ向き直った。勿論敬礼も忘れない。

「ほお、同情な。言うようになったな。いつから先輩風吹かせるような立場になったんだ? リュウトよ」
「はっ! 返す言葉もございません!」
「返す言葉もございませんじゃねえよ。開き直ってんなタコ」

兵士長改めリヴァイ兵長はリュウトの肩を軽くバシンと叩くと、私たちの脇をすり抜けて椅子に腰掛けた。あまりにも軽いその様子に、私は面食らった。無理も無い。団長補佐という立場から見ていても、兵士長は扱いにくい人だった。いくら顔を突き合わせても緊張するし、地位が無ければ無意味な世間話すら出来ないというイメージだった。だからこそ私は夜明けが来ないことを本気で願っていたのに。
今リュウトと対峙したリヴァイ兵長という人は、彼女の軽口を軽くどついただけで流していた。執務室で見る兵士長とはあまりにもギャップが激しい。私が団長の隣から適当な話題を振ったところで、眉間に皺を寄せて流していた兵士長殿が。軽口対応兵士長。なんだそれは。
そんな私の衝撃など知らぬまま、リヴァイ兵長は私をじっと見つめると、小さく溜息をついて、手に持っていたものを投げ寄越した。

「…で、カーヤ」
「…はい」
「見知った顔だからな。今更お前に言うようなことも無いんだが…侍女? 俺の生活周りをサポートするとかエルヴィンが抜かしてやがったが」
「そうですね。私もいまいち仕事の内容がわからなくて」
「じゃあ掃除でもしてろ。それはお前の制服だ」
「制服って…これエプロンですよね?」
「掃除するときにジャケットは着ねえだろうが」

きちんと畳まれていたそれを広げる。真っ白な三角巾と、団服の腰巻と同じ色のカフェエプロンだった。エプロンの左下には調査兵団の自由の翼と、それに重ねるようにしてLの刺繍が入っている。はっとしてリュウトのジャケットを見れば、胸や上腕についた自由の翼にはLの刺繍が施されている。恐らく背中にもだ。

「なんですか、このLは」
「お、いいとこに気づいたねー! リヴァイ兵長のLの文字なんだよ。兵長専属班の証拠」
「カーヤの仕事については、何か思いついたら声をかける。それまで本部の掃除だ。わかったな」
「…掃除とは、どの辺を」

視界の隅でリュウトが曖昧に笑った。リヴァイ兵長はそれに目もくれず、何抜かしてやがんだと、そう言った。

「全部に決まってんだろうが」

曖昧に笑ったリュウトの目元に浮かんだものが哀れみだったと、そのとき初めて気づいたのだった。


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