確かに平和だったのだ。
その日、団長に直接命令を言い渡されるまでは。

何の変哲もない日だった。次の壁外調査まではまだ日数があったし、作戦会議などのスケジュールやその他のことが比較的順調に進んでいた。
エルヴィン団長とリヴァイ兵士長が揃って、なんでもない世間話で談笑するくらいのんびりした日だったのだ。

「しかしリヴァイ、先日の会議での癇癪はさすがに私も弱ったよ。どうにかならないかね」
「無理なものは無理だ」
「汗くらい誰でもかくだろう?」
「書類配るだけなら汗かいてない奴にやらせればいいだろうが」

2人が話題にしている会議で起きたちょっとした事件のことは、私もよく覚えている。新兵が会議に使う書類を配布していたのだが、団長と兵士長、それに続く分隊長たちの面々に緊張してしまったらしく彼の手はやや汗ばんでいたのだった。そしてこのリヴァイ兵士長殿が、癇癪を起こしたのだった。

「はあ…君の潔癖には参ったものだ。カーヤ、すまないがお茶をくれるか」
「はい」
「おい、俺の分も」
「はい」

団長にお茶を淹れようと水場へ向かおうとして、兵士長にも声をかけられた。お茶程度、ひとつ増えようがふたつ増えようがあまり変わりはない。

「そういえば、リヴァイ」
「なんだ」
「…お前、カーヤにはあまり文句を言わないんだな」
「あ? 見慣れてるからじゃねえか。ここにいれば、嫌でもそうなる」
「…お話中失礼します。お茶が入りました」

テーブルの上にティーカップとティーソーサーを2つずつ置いて、自分にも淹れようと踵を返す。団長が口を開いたのはそのときだった。

「私に案があるんだ。カーヤを侍女にするというのはどうだ?」
「…あ?」
「…はい?」

一拍置いたあと、何を言い出すのかと詰め寄るリヴァイを軽くいなして、団長は朗らかに笑った。

「見慣れているから平気なんだろう? リヴァイ、私はね。もう少し他人に慣れるべきだと考えていたんだよ」
「それとこれとは話が別だろうが。なんだ侍女って」
「団長、大変恐縮なのですが、私からも説明をお願いしたいのですが」
「はは。…おや、もうこんな時間か。カーヤ、私はハンジに用事があるが、君はこれで終業だ」
「おい、エルヴィン!」
「いいね、カーヤ。君は明日を持って兵長専属班に異動だ。明日の朝礼で皆に周知を行う」
「団長!」
「それでは、また」

執務室を出て行く団長の背中はいやに爽やかだった。
一方、私のすぐ傍で佇む兵士長殿の負のオーラといえば筆舌に尽くし難い。恐らく私から出ているオーラも同質だろう。そもそも兵長専属班とは何だ。初めて聞いた。そう呟けば兵士長も同じことを言った。

「…おい、カーヤ」
「…はい」
「てめえの上司だろうが、どうにかしてこい」
「…お言葉ですが、貴方の上司でもあるのですよ」



こうして、私の平和で穏やかな日々は終焉を迎えることとなったのだった。


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